無料ケータイ小説ならプリ小説 byGMO

第5話

意外と素直な黒神様
 日曜日の昼下がりに、私は居間の掃除をしていた。
 この屋敷は無駄に広いから、こうして掃除するだけでも一苦労なのだが……
九条瑠衣
ねえ、クロ。こたつでだらだらするくらいなら掃除手伝って欲しいんだけど
クロ
そんな面倒なこと、放っとけば良いんだよ。俺は別に気にしない
九条瑠衣
私は気にするの!
クロ
はあ……分かったよ
 私の言葉に素直に立ち上がるクロ。
クロ
で、俺は何をすればいいんだ
九条瑠衣
玄関の土手が汚れていたから箒かけておいてくれる?
クロ
箒ね
 私が指示するとクロは案外素直に従ってくれた。こういうところが妙に人間くさくて、神様っぽくないんだよね。まあ、元々神様扱いなんてしていないけど。
(いきなり人のことをペット扱いしだすし、神様だとしても黒神だよ。邪神の類に違いないわ)
 私に邪神扱いされているとも知らないクロが素直に玄関の掃除をしていると、ピンポーンと呼び鈴の鳴る音が聞こえてきた。 
九条瑠衣
クロ、ちょっと出てくれるー?
クロ
はあ? 無理に決まってんだろ
九条瑠衣
いや、無理って。すぐ近くにいるじゃない
クロ
無理なもんは無理だっての
 居間と玄関でそんなやり取りをする私達。
 掃除は手伝ってくれるのに、こういうところで融通の利かないやつだ。
九条瑠衣
もう、仕方ないわね
 雑巾を机に置き、玄関に向かう。
九条瑠衣
お待たせいたしました。どちら様でしょうか?
 玄関を開けると、そこに待っていたのはどこにでもいそうな普通の中年男性だった。手には鞄を持っており、にこやかな笑顔で私に話しかけてくる。
こんにちは。只今、弊社で扱っております新商品の紹介をさせてもらっておりまして。少々お時間よろしいでしょうか?
九条瑠衣
あー……すみません。今はちょっと……
 どうやら営業の人らしい。こんな日曜にまで熱心な人だ。とはいえ、そんな用事に付き合う義理もない。速攻でお帰り願おうと、拒否する姿勢を見せるのだが、男はなかなかにしつこかった。
まあまあ、そう言わず。お客様も絶対に気に入るはずですから。まずは商品の説明だけでも
 笑顔を崩さないままぐいぐいと押してくるセールスマン。
 こんな屋敷に住んでいるくらいだから、金を持っていると思われているのだろう。面倒なことだ。仕方ない。ここはクロをダシに使わせてもらおう。
九条瑠衣
誠に申し訳ありませんがこの後、この人と二人で出かけることになっておりまして。今日のところはお引き取りください
 私が隣のクロにちらりと視線を向けつつ、そう断る。デートの予定があると思わせれば流石に帰ってくれるだろうと思ったのだが、
はい? え……この人とは?
 セールスマンはぽかんとした表情で周囲に視線を向けていた。
九条瑠衣
この時代遅れの和服男のことですよ
クロ
おい
 クロが不満げな声を上げたが、無視。
和服男……ですか?
 私が手を向けた方向に視線を向けるセールスマン。だが、その表情は依然として険しい。
あー、あはは。えと、お忙しいところ失礼いたしました
 ぺこりと一礼して、そそくさと退散していく男。さっきまであれほどしつこかったのに一体どうした?
九条瑠衣
なにあれ
クロ
そりゃああなるだろうな
 私の隣でクロが後ろ頭を掻きながら、そう呟いた。
九条瑠衣
クロ、どういうこと?
クロ
前にカメラで俺の姿を撮らせたことがあったろ。あれと同じだ
九条瑠衣
え? どゆこと?
クロ
つまりはだな、
 クロは両腕を組みながら、私の瞳を見つめてこう言った。
クロ
俺が視えるのはこの世界でお前だけってことだよ