死んだ祖父の遺言で相続した小さなお屋敷。そこにソイツはいた。
意地悪で、高圧的で、そしてどこまでも身勝手な……
──私の『神様』が。
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見事な筆記で『九条』と書かれた表札を前に、昔を思い出す。
引越し作業がまだ残ってるけど……ちょっとくらいならいいよね。
桜の木は記憶にあるものより少し小さく見えた。それだけ私も成長したってことかな? なんて思っていると……
突然聞こえた声は上空から。
見上げると、そこには木の枝に器用に腰掛ける和服の男がこちらをじっと見つめていた。端正な顔立ちと、雑にまとめられた短い黒髪。まるで映画の舞台からそのまま抜け出してきた主演俳優のようだ。
男は桜の木から、まるで軽業師のような身のこなしで私の目の前に降り立った。そして私が距離を取る暇もなく、その細い指で私のあごに手を添え、
くいっ、と正面から私の顔を覗き込むのだった。
私が腕を振ると、ひょいと身を引く和服の男。
こ、こいつ……バカにしてっ!
俺の家って、この人も九条家の人間? いや、でも親戚の集まりでもこんな人見たことないし……
私の問いに男は少しだけ間を置き、こう答えた。
悪戯っ子のような無邪気な笑みを浮かべて。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。