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第4話

神様と同居始めました
 学校のチャイムが鳴ると、生徒達は待ってましたと言わんばかりに席を立つ。

 放課後のこの時間は生徒達にとって長い長い拘束期間を終えた開放の時。部活に行くもの、遊びに行くもの、そこは様々だったが皆楽しそうに動き出している。

 私は私で、さてさっさと帰るかと荷物を整理していると、
女子生徒
あ、九条さん。これから皆でカラオケ行くんだけど、良かったら一緒にどう?
 クラスメイトの一人が私に楽しげな笑みを浮かべながら近付いてきた。

 この女子生徒の名前は……何だっけな。駄目だ。思い出せない。まだこのクラスになってから日が浅いから仕方ないと言えば仕方ないけど、向こうは覚えてくれているのにこちらが覚えていないというのは居心地が悪い。

 まあ、この学校に『九条』を知らない人間がどれだけいるのかという話だけどね。
九条瑠衣
お誘いありがとうございます。でも、ごめんなさい。今日は家の稽古がありまして、折角の申し出ですが遠慮させて頂きます
 私が背筋を伸ばして丁寧に一礼すると、女子生徒は「ああ、良いの良いの。忙しいのにごめんね!」と軽く手を上げて、女子グループの輪に戻っていった。

 鞄を手に取り、そそくさと教室を出る寸前、そのグループの話し声が漏れ聞こえてくる。
女子生徒
だからやめときなって言ったじゃん。どうせ誘っても来ないんだから。あの子、一年の時からそうなんだもん
女子生徒
え、それマジ? たったの一度も?
女子生徒
そうそう。いっつも一人でいるし、一人が好きなんでしょ
女子生徒
えー、なにそれ。めっちゃ寂しいヤツじゃん
 あははは、と笑い声に混じって聞こえてくる話し声。私は聞こえないフリをして、教室を後にした。
九条瑠衣
……一人が寂しいとか、馬鹿なんじゃないの
 他人に時間を割く余裕があるのなら、自分を高める努力をするべきだろうに。
 そもそも、一人だから寂しいというのもおかしな話だ。
九条瑠衣
私の感情をお前らが勝手に決めるな
 私は一人で良い。一人が良い。誰にも頼らない。物心ついてからずっとそうして生きてきた。そして、これからも。そのつもりだったのだが……
クロ
よお。帰ったか、瑠衣
九条瑠衣
…………
クロ
どうした。苦虫を噛み潰したような顔しやがって
 この男ばかりは避けては通れないらしい。
 一週間前から一緒に住み始めた同居人。
自称神様。
九条瑠衣
……やっぱり夢とかじゃないよねぇ、これ
クロ
それ言うの何回目だよ。いい加減現実を見たらどうだ
九条瑠衣
一番非常識なクロがそれを言うの?
 冬から出しっぱなしらしい炬燵から上半身だけ出して、寝転がるクロ。

 私はこの謎の男をクロと呼ぶことにした。理由は単純、腹黒だから。神様なんて呼ばれ方をする存在ではないことだけはこの一週間ではっきりしたしね。
九条瑠衣
あーもう、また雑誌散らかして……あっ! それ私のとっておいたプリンじゃない!
クロ
ん? ああ、これか。なかなかに美味だった。常備することを許す
九条瑠衣
勝手に人のもの食べてんだから、まずは謝りなさいよ!
クロ
あー、もう。きゃんきゃんうるせえ犬だなあ
 パタンと雑誌を閉じて、体を起こすクロ。
クロ
家でくらいゆっくりしろよ。学校、大変なんだろ?
    真剣な表情で、真っ直ぐにこちらを見つめるクロに思わず言葉に詰まる。
九条瑠衣
……別に。大変ってこともないわよ。みんなやってることだし
クロ
同じことやっても、どれぐらいの負担がかかるかは人によるだろ。いいから少し休んどけ。夕飯は俺が作ってやるから
 そう言って立ち上がり台所に向かうクロ。
 こいつは……たまにこういうところがあるから、ずるい。
九条瑠衣
……あ、ありがと
 私が感謝の言葉を告げるとクロはぴたりと立ち止まり、振り返りながらわざとらしく目を見開き、驚いた表情を浮かべて見せる。
クロ
お前……感謝とか出来たんだな
九条瑠衣
感謝ぐらい出来るに決まってんでしょ!
 少し見直したらすぐこれだ。
 なに? 神様ってのは人のことを小馬鹿にしないと生きていけない人種なの?
クロ
冗談だっての。ガキは素直に「待て」だ。ペットへの餌やりも飼い主の仕事だからな。任せとけ
九条瑠衣
あー、もうっ! やっぱり私が作る!
 共同生活を始めて一週間。いい加減はっきりしたことがある。
 それは、私はこいつのことが大嫌い、ということだ。