『 死にたい 』
漠然とした感情は
口に出した途端にリアルを帯びた
別に
仕事が辛い訳でも
失恋した訳でもない
普通に生活できるお給料を貰ってるし
人間関係にも困ってない
嫌だった満員電車も慣れた
なのに、死にたい
死に場所と死に方をぼんやり考えながら
夜道を歩く。
今はすっからかんの公園
いつもは子供で満ちているから
なんだか違和感だった
私みたいだなぁ、なんて思いながら
ブランコを眺める
公園の端に差し掛かった時
ドスっ
と鈍い音がした
あぁ、歩いて来た人にぶつかったんだ
他人事の様に脳が動く
「 あぁ、すみません 」
差し伸べられた手を掴み起き上がる
『 いえ、 』
「 こんばんは 」
恥ずかしそうで柔らかなアルトの声に
『 こんばんは 』
メゾソプラノを合わせた
なんとなく、もう少し散歩をしようと思った
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。