でも…やっぱり…
弟くんの声を思わず遮ってしまった。
だって…だって…。
相変わらず冷たい視線。
先程から全く変わらない氷のような表情。
胸が裂けそうになる。
張り裂けそうになりながら絞り出した小さな声。
彼に届いたかは定かではない。
でも、彼の表情は揺らいだ。
悲しげに揺らめく蜂蜜色の瞳。
実際彼は、きっと兄の事を思ってる。
だから、あんなに悲しそうな表情になれる。
暫くの間、沈黙が流れた。
そして弟くんが顔を上げる。
その顔に光は無い。
怠そうに腕をブラブラさせる。
にんまりと笑ってそんなことを告げる悲しげな色の瞳。
もういい、バイバイ
弟くんはそう告げて消えていった。
クソっと言って地面を蹴る颯太
その時だった。
ガシャガシャ パリーン
ジャラジャラ バラバラ
バキバキ バリッ
四方八方から何かが割れる音がする。
いや…何かでは無い。
この世界は...
【鏡】
鏡だ、鏡の割れていく音
ここまでは来ていないが、この〝セカイ〟から鏡が割れていく音がする。
...何で。
隅の方から、聞こえた小さな声。
全員が息を飲んだ。
鏡の世界であるこの空間から、鏡が消えれば...。
恐らく、その通りだ。
それが無ければ、この空間がぐちゃぐちゃに崩壊する。
鏡が映す鏡ではなく、ただのカガミになる。
そのカガミが折れ、破損し、崩壊した姿が広がるただの無に近いガラクタだらけになる。
凛がボソリと呟いた言葉に、ハッと思い出したかのように反応する。
皆が焦っているのを制したのは颯太だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!