躾けるとは言ったものの
具体的に何をすればいいんだろう?
今朝もまたきょーちゃんと登校しながら
ふと隣を歩く彼を見上げる。
優しい微笑みを向けられ慌てて目をそらす。
そうだ…!
今日1日私が目を光らせて、彼が悪いことをしたら
その時に躾ければいいんだ!
キーンコーンカーンコーン。
チャイムとともに最初の休み時間が始まった。
彼は眠そうに大きなあくびを一つして
次の授業の準備を始めた。
すると彼がふとこちらを向いた。
慌てて目をそらして見てないふりをする。
ひょっこり現れたのは優香だった。
優香にはバレバレみたい。
彼が金属バットを振り回す危ないやつなんて
口が裂けても言えなかった。
今はこのごまかし方でいいよね?
にまにまと笑みを浮かべる優香は
私の肩をぽんと叩いた。
グスンと泣くような仕草をしながら
優香は席へ戻っていく。
何か大きな誤解をされている気がするけど
私の声はチャイムにかき消されてしまった。
────そして昼休み。
優香が意地でも一人で食べると言うから
私は思い切って彼を誘ってみることにした。
ガタン!と音を立てるように
椅子から立ち上がったきょーちゃん。
あまりの大声に周りの視線が彼に集中した。
まるで大型犬のように
ブンブンとしっぽを振る幻覚がみえる。
満面の笑顔を浮かべる彼は私の手をとり
おすすめの場所に案内してくれた。
───そこは少し風が強い屋上だった。
そう言うと彼は首をかしげて
しーっと口元に人差し指を当てた。
そして強引に腕を引かれ、彼の隣に座らされる。
彼のお弁当は結構色鮮やかで
やけに整列した卵焼きが印象的だった。
彼は甘い笑みを浮かべて
口の中にプチトマトを押し込んできた。
甘ずっぱいトマトが口の中で弾けて
思わず口元からこぼしてしまう。
すると彼はすっと真顔になって小さくつぶやいた。
次の瞬間、突然腕を掴まれ
かぷりと手の甲を噛まれる。
あまりのことに言葉が出ず、冷や汗が背を伝う。
な、何がどうなってるの?
ダメだ!!
知らない内にまた彼のペースだ…!
ちゃんと躾けなきゃ!
とっさに口走ってしまって後悔する。
彼はすごく傷ついた顔でうつむいた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。