ひんやりとした冷や汗が背中を伝う。
先生から逃げようと必死に身体をよじるけど
やっぱり縄はほどけない。
ピリリ…とまたスマホから着信音が鳴った。
先生はスマホをコンクリートの地面に置いて
バキッ!!と踏みつけた。
いや、正直に言うと小さな不信感はあった。
でも私はそれをあえて
見て見ぬ振りしていたのかもしれない。
だって普通、人は人を信じるものだから。
先生はピッと小さなリモコンを操作する。
すると眩しい光とともに倉庫の壁に
とある写真が映し出された。
それは見るも無残な死体の写真だった。
ピ、ピ、ピ。
次々と映される残酷な写真。
目を閉じてそう叫ぶと、耳元で先生が囁いた。
喉元まで出かかった悲鳴を
ぐっとのみこんで先生を睨む。
興奮気味に先生は
ポケットから小さなナイフを取り出した。
ピタリと冷たい刃先が頬を滑る。
恐怖で身体が動かない。
そう言われて初めて
何かがストンと腑に落ちた気がした。
そっか、私…
きょーちゃんのこと好きだったんだ。
自覚したからか
こんな状況なのに顔がカッと熱くなった。
彼への感情に浸るヒマもなく
先生は私にナイフをつきつける。
先生は私からすっと離れ、三脚をセットし始めた。
多分、撮影用のビデオカメラだろう。
鼻歌を歌いながらカメラをセットする先生に
恐る恐る問いかける。
そう言って先生はにこりと笑顔をみせた。
時間稼ぎもお見通しだったみたい。
そっか。
私、ここで死ぬんだ…。
コツリ…コツリ…と
先生はナイフを持って私へと歩をすすめる。
でももう全部遅い。
振り上げられるナイフ。
ぎゅっと目を閉じた次の瞬間───
遠くでパリンとガラスが割れる音が聞こえた。
待ちわびた彼の声が聞こえた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。