私は彼の元へ走った。
右手には手紙を握りしめ息を切らして教室へと入る。
まるで私が来ることを知っていたような反応。
彼は無言で席を立つと私の手を引いて
屋上へと向かった。
────キーンコーンカーンコーン。
屋上のスピーカーが大きな音で授業開始の
チャイムを鳴らした。
きょーちゃんはいつも私を優先してくれる。
こんなにも真っ直ぐ私を思ってくれているのに
どうして今まで誤解してたんだろう。
私は握りしめていた手紙を彼へと差し出した。
なぜか興味なさげに手紙を広げ
彼の目が字を追っていく。
彼は何かを思い出すように頷いて
少し照れくさそうに笑った。
彼は当たり前かのように答えた。
ただ、私の話を受けとめてくれる彼。
誠心誠意、頭を下げる
それからゆっくりと顔をあげると
彼が優しい瞳で私を見つめていた。
彼は一歩踏み出し、私の顔を覗き込む。
「ひなた」
そう言って彼は、私の頬に優しく触れる。
突然の「好き」にカッと顔が熱くなる。
初めて彼がはっきりと気持ちを伝えてくれたのに
顔が熱くてそれどころではない。
また怖いことを言う彼だけど
私はもう平気だった。
念を押すように返事を催促され
私は勇気を出して答える。
裏返った声が恥ずかしくて思わず顔をそらす。
余計な言い訳を口走ってしまい、早くも後悔する。
彼の方を向くと、目の前に影がかかる。
唇に触れる柔らかい感触。
数秒間、まるで時間が止まったみたいに
周りの音が何もかも聞こえなくなった。
唯一感じるのは唇の熱だけ。
すっと彼の顔が離れてやっと時間が動き出す。
悪びれない顔で笑う彼。
あまりにストレートな気持ちに
私はもう彼には敵わないんだと思った。
その日、私達は2人で授業をサボった。
そういうと優しい笑みを浮かべ
きょーちゃんは私を抱きしめる。
そう耳元で囁かれた彼の声は
「一生離れたくない」と思えるほど甘く響いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!