第21話

思い出と恋心
6,150
2021/09/24 12:34



黒瀬 恭平
黒瀬 恭平
一生離さないから…
遠くできょーちゃんの声がかすかに聞こえた。

そして私はまた深い暗闇の中に意識を落とし
懐かしい夢を見た。


​───────
​─────
​───
ひなた
アリさん殺しちゃダメだよ!
きょうへい
どうして?
ひなた
だってアリさんも
私達と一緒で一匹一匹
大事な命があるんだよ!
きょうへい
もうアリは殺さないから
俺と友だちになってくれる?
ひなた
うん、いいよ!


それはきょーちゃんと
出会ったときの思い出だった。
ひなた
あれ?
腕のところケガしてるよ
どうしたの?
きょうへい
えっと…転んじゃったんだ

ふいっと気まずそうに目をそらす彼。

何も知らない私は好奇心にまかせ
彼の袖をまくってしまった。
ひなた
どうして隠すの?
えいっ!
きょうへい
わっ!

腕だけじゃなく肩まで続くように
無数のアザがあった。
ひなた
ひどいケガだよ!
病院いこっ!
きょうへい
だめ!!


きょーちゃんはぱっと腕を払って
ごまかすように笑った。
きょうへい
平気だよ
ひなた
でもすごく痛そうなのに…
きょうへい
そんなことより遊ぼうよ!

きょーちゃんが笑顔でそう言うから
その頃の私は見過ごしてしまった。

でも本当は平気なわけないよね。
きょうへい
ひなたの家族がいなくなれば
俺と一緒にいてくれる?

こんなひどい言葉に泣かされたときだって
彼の身体には無数のアザがあった。

彼にとって家族はきっといらないものだったんだ。
帰るぞ!
きょうへい
いやだ!
離してよお兄ちゃん!!
ひなた
きょーちゃん…
きょうへい
ごめんひなた…
今日は帰らなきゃ
バイバイ
ひなた
バ…バイバイ

2人の兄に引きずられるようにして
帰っていった日もあったっけ。


まるで思い出を空の上から
俯瞰ふかんで見ているような感覚。

どうして忘れていたんだろう。
きょーちゃんは家族に虐待されていたんだ。

きっとそのせいで彼の性格は歪んでしまった。
一ノ瀬 ひなた
一ノ瀬 ひなた
待ってきょーちゃん!!

強引に引きずられていく背中があまりにも哀しくて
思わず手を伸ばした。


​───
​─────
​───────
黒瀬 恭平
黒瀬 恭平
ひなた!!

伸ばした手を強く掴まれてはっと目を覚ます。

ベッド脇のきょーちゃんが私の手を
ぎゅっと握っていた。
一ノ瀬 ひなた
一ノ瀬 ひなた
あれ…きょーちゃん
黒瀬 恭平
黒瀬 恭平
よかった…
もう二度と目を覚まさないかと…

見慣れた自分の部屋の天井。
そっか…無事帰ってきたんだ。
一ノ瀬 ひなた
一ノ瀬 ひなた
助けてくれたんだね…
ありがとう
黒瀬 恭平
黒瀬 恭平
ごめん、俺のせいなんだ!
俺がもっと早くに行けば…!
一ノ瀬 ひなた
一ノ瀬 ひなた
ううん、私は大丈夫だよ
本当に助けに来てくれてよかった
あのままじゃ私どうなってたか…

まさか本郷先生が連続殺人犯だったなんて。

一ノ瀬 ひなた
一ノ瀬 ひなた
そうだ!先生は!?
あの後どうなったの?
黒瀬 恭平
黒瀬 恭平
捕まったよ
だから安心して
一ノ瀬 ひなた
一ノ瀬 ひなた
…そっか
黒瀬 恭平
黒瀬 恭平
俺、ひなたを守りきれなかった
俺が側にいればひなたは安全だって
思ってたのに、逆効果だったみたい
一ノ瀬 ひなた
一ノ瀬 ひなた
そんなこと…
黒瀬 恭平
黒瀬 恭平
俺みたいなサイコパスが近くにいれば
誰も手を出さないと思ってたんだ


そう言って彼は申し訳なさそうにうつむいた。

もしかして、彼のサイコな行動は
すべて私を守るためだったのかもしれない。

私を抱きしめてくれる腕は、ひどく優しかった。







​───そして数日後。

テレビでは世間を騒がせた連続殺人犯が
捕まったとのニュースが流れた。

キャスター
警察が捜査を続けていた
連続殺人事件の容疑者が逮捕されました
容疑者は30代男性の…
一ノ瀬 ひなた
一ノ瀬 ひなた
あれ…?
映された容疑者の顔に違和感を覚える。

先生ってあんな顔だったっけ?

すると、ブツっと突然テレビが消された。
リモコンを持っていたのはきょーちゃんで。

黒瀬 恭平
黒瀬 恭平
見ないほうがいいよ
色々思い出しちゃうでしょ?
一ノ瀬 ひなた
一ノ瀬 ひなた
きょーちゃん?
こんな朝早くからどうしたの?
黒瀬 恭平
黒瀬 恭平
ひなたのお父さんに頼まれたんだ
毎朝学校まで送ってくれって
一ノ瀬 ひなた
一ノ瀬 ひなた
そうなんだ
でも私達もう…

付き合ってないのに。
そう言おうとして口を閉じる。
黒瀬 恭平
黒瀬 恭平
行こ、ひなた!
一ノ瀬 ひなた
一ノ瀬 ひなた
う、うん


きょーちゃんはまだ、私のこと好きなのかな?



プリ小説オーディオドラマ