遠くできょーちゃんの声がかすかに聞こえた。
そして私はまた深い暗闇の中に意識を落とし
懐かしい夢を見た。
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それはきょーちゃんと
出会ったときの思い出だった。
ふいっと気まずそうに目をそらす彼。
何も知らない私は好奇心にまかせ
彼の袖をまくってしまった。
腕だけじゃなく肩まで続くように
無数のアザがあった。
きょーちゃんはぱっと腕を払って
ごまかすように笑った。
きょーちゃんが笑顔でそう言うから
その頃の私は見過ごしてしまった。
でも本当は平気なわけないよね。
こんなひどい言葉に泣かされたときだって
彼の身体には無数のアザがあった。
彼にとって家族はきっといらないものだったんだ。
2人の兄に引きずられるようにして
帰っていった日もあったっけ。
まるで思い出を空の上から
俯瞰で見ているような感覚。
どうして忘れていたんだろう。
きょーちゃんは家族に虐待されていたんだ。
きっとそのせいで彼の性格は歪んでしまった。
強引に引きずられていく背中があまりにも哀しくて
思わず手を伸ばした。
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伸ばした手を強く掴まれてはっと目を覚ます。
ベッド脇のきょーちゃんが私の手を
ぎゅっと握っていた。
見慣れた自分の部屋の天井。
そっか…無事帰ってきたんだ。
まさか本郷先生が連続殺人犯だったなんて。
そう言って彼は申し訳なさそうにうつむいた。
もしかして、彼のサイコな行動は
すべて私を守るためだったのかもしれない。
私を抱きしめてくれる腕は、ひどく優しかった。
───そして数日後。
テレビでは世間を騒がせた連続殺人犯が
捕まったとのニュースが流れた。
映された容疑者の顔に違和感を覚える。
先生ってあんな顔だったっけ?
すると、ブツっと突然テレビが消された。
リモコンを持っていたのはきょーちゃんで。
付き合ってないのに。
そう言おうとして口を閉じる。
きょーちゃんはまだ、私のこと好きなのかな?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!