第13話

個性、前世
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2023/05/31 13:14
 
「......ちゃんと、やります」
 あのときの私はどうかしていた。烏間先生が呼び掛けてくれなかったら、本当に鷹岡の顔にナイフを振り下ろすところだった。まあもしかしたら、殺せんせーが止めてくれたかもしれないけど。
 私は巨人と鷹岡を重ねていた。そうすれば、鷹岡にナイフを当てるぐらい楽勝だと思ったから。でも重ねすぎた。私が前世で巨人から味わった苦痛を、鷹岡に味合わせようとしていた。私は、ほとんど理性を失っていた。
 
 殺せんせーが気を遣ってくれて早退することになって、教室で荷物を片付けてるとき、さっきのことをいろいろと思い出してしまった。
......本当私って、どうしようもない奴だな
 いくら巨人が憎いからといっても、鷹岡を本当に殺そうとした。それは許されることじゃない。どんな人でも命は奪っちゃいけない。たとえばそれが、何百人も人を殺した
「......あれ、、、、? 私、何いってるんだろう」
 自分が怖くなった。
 一体どの口が言っているのだろう。私が今までどれだけの人を死なせてきたか。それは私が一番よく知っている。
 巨人を駆逐するため、死んだ仲間に報いるため、山程仲間を見殺しにしてきた。見捨ててきた。切り捨ててきた。囮に使った。仲間であるはずの憲兵団も殺した。全てそう判断したのは私だ。他でもない、私自身が下した決断だ。
 たとえそれが命令だったとしても、結局その行動を取ったは自分だ。自分で決めた。その命令に従うと。
「......」
 私は一体、どれだけの人を殺したんだろう。
 結局巨人だって、もとは人間だった。その巨人を、私はたくさん斬ってきた。巨人化したナガコ村の人たちだって斬った。殺した。同じパラディ島で生まれ育った人たちを、この手で殺めた。
 マーレから巨人になって送られてきた、私と同じエルディア人もたくさん斬ってきた。殺したんだ。
......私はずっと、人間を殺し飛び回ってた。
「......」
 私の頬に一筋の涙が伝った。
 
 
「......渚に謝らないとな」
 下駄箱で渚とすれ違って声をかけられたが、ろくに返答もできなければ、笑顔を作ることもできなかった。きっと私のことを心配して声をかけてくれただろうに。
 帰り道を一人で歩いていると、だんだん心が落ち着いてきた。まあ、罪悪感は全然消えてないけど。
「明日どうしよう......」
 みんなの前で鷹岡を殺しかけ、おまけに渚には泣いているところも見られてしまった。絶対気まずい。
......なにより
 私がしんどい。きっとみんな優しいから、普段通りに接してくれると思う。いつものように話しかけてくれると思う。でも私は、そんな彼らと話してはいけないと思ってしまう。
 何故なら私は人を殺しているから。もちろんそれは前世の出来事だけれど、現世の私はもう中身が前世の私になっている。人を殺していない現世の私には戻れない。
 みんなは私みたいにけがれていない。みんな真っ白な心を持っている。そんな彼らと私が会話してしまったら、そのきれいな心を汚してしまう気がする。それだけは嫌だ。
 汚れるのは、私一人だけでいい。
 みんなが私と関わったことで汚れてしまったら。私と話したのを後悔させてしまうかもしれない。私が汚した彼らの心は、私がぬぐうことはできないから。
「、、、、一人は、怖いな。」
 怖い。そう、私は怖いのだ。仲良くなればなるほど、失ったときの代償が大きいから。一人は、寂しいから。悲しいから。心細いから。私はそれを、あのとき知った。
 そう、あのとき。巨人に壁が壊されたとき。私は家族を巨人に食われ、踏み潰され、殺された。目の前で。
 そのとき私はというと、珍しくあんな非常時でも冷静に動いていた駐屯兵団の人に助けられた。いや、当時の私がまだ幼かっただけで、あの人も相当焦っていたかもしれない。結局その人は、鎧の巨人の攻撃で死んでしまったけれど。
 私はそのとき家族を失った。突然。碌にお別れもできずに。だから私は巨人を恨んだ。多分あのときの私は、エレンよりも巨人を憎んでいたと思う。そして誓った。いつか絶対、家族の仇をとってやると。この世から、一匹残さず、奴らを消し去ると。
 そして巨人を駆逐するため選んだ選択の結果があれだった。エレンのマーレ襲撃時の暴走。エレンは独断でマーレに乗り込んだ挙げ句、関係のない民間人も殺した。壁が壊されたあのときの私たちみたいな子供も。
 もしかしたら、私はもう既にあの頃にはわかっていたかもしれない。頭の片隅で、思っていたかもしれない。私が、汚れまみれの醜い生き物だと。
......リヴァイ兵長なら、なんて言ってくれるのかな
 リヴァイ兵長なら、今の私を見てなんて言ってくれるのだろう。励ましてくれるのだろうか。一緒に汚れてくれるのだろうか。それとも......
「......嫌いになるかな」
 血でまみれて汚い今の私は、リヴァイ兵長から見てどんな姿なのだろうか。前世と変わらず愛する対象だろうか。醜くて汚らわしい軽蔑する生き物だろうか。
 きっと後者だ。リヴァイ兵長は汚いものが嫌いだから、心が汚れてる私のことはきっと嫌いだ。
 リヴァイ兵長に嫌われたら、私が生きる意味はない。死んでしまったほうが、私も楽になれるしリヴァイ兵長も喜ぶかもしれない。
......でももしかしたら
 もしかしたら、こんな私でもまだ好きだと言ってくれるかもしれない。まだ私に「愛している」と言ってくれるかもしれない。
 また私に微笑みかけてくれるかもしれない。また抱き締めてくれたり、手を繋いでくれたり、一緒に寝てくれたり、デートもしてくれるかもしれない。
 朝会ったらおはよう。夜寝る前はおやすみ。「好き」だと言って愛してくれるかもしれない。
「......それぐらい、考えたって良いよね」
 そんな風に思いながらも、頭の片隅でまた思う。私はなんて醜い生き物なんだろうと。
 限りなくゼロに近い可能性にすがって、自分は生きても良いんだと思い込ませてる。人を殺めておきながら。生きていて良いはずかないのに。
 それがわかっていてもその可能性を諦めきれない。ずっと追い求めてしまう。
「リヴァイ兵長......」
 家のドアを引き中に入る。ドアの手を放すと、扉がしまる音がする。
「......愛してるって言って欲しいです......」
 扉がしまるのと同時に発せられたその言葉は、声を絞り出したように小さな声だった。そしてそれは扉のバタンという音に書き消された。それはまるで、最初から誰も何も言っていなかったかのようだった。
 ふと視線を向けると、あなたの手には自由の翼の刺繍が施された深緑のマントがあった。それは新品のように綺麗に手入れされているものだった。一体誰のマントだったのか。それを知る者は、誰一人としていなかった。
 
 
 
「あなたさん、悩みを話してくれませんか?」
 時は流れ11月。暗殺期限が残り四ヶ月と迫る中、進路相談の時期がやって来た。
 そして今私は、なかなか進路希望の欄が埋まらなくて殺せんせーに呼び出しを受けている。
「悩み、、、ですか、?」
「はい。あなたさんはずっと悩んでいることがあるでしょう?」
「まあ、、、はい、、」
 私はあの日からずっと悩んでいた。私は生きていても良いのかと。沢山人を殺した私が、こんな風にのうのうと暮らしていて良いのかと。
「......あなたさんは、七月ごろに鷹岡先生が来たときのことを覚えていますか?」
「......はい」
 忘れるわけがない。あの日から私は生きることに罪悪感を覚えた。あの日から私は変わってしまった。
「......私、あのとき、鷹岡先生を重ねていたんです。私が最も憎んでいるものと。......殺してやりたいほど憎くて、なんならいたぶってやりたいくらいで......。あのときの私は、ほとんど理性を失ってたと思います」
「......いやー、あのときは先生も焦りました。まさかあなたさんにあれほど暗殺の才能があったとは......ってあ」
「......やっぱり、そうなんですか」
 私も薄々思っていた。暗殺実行中、真剣にターゲットを狙ってるとき、集中すればするほど、全身の神経が研ぎ澄まされて、ふわふわした感覚になる。そして何故か、運動能力も上がってるように感じるのだ。
「......南の島暗殺計画のときとか、今まで以上に本気で挑みました。そしたらなんか、何をどうすれば良いのかが感覚的にわかって、普段の私では考えられないような動きも出来ちゃんうです。思い返したら、あれは私の才能なのかなって。......渚とは少し違う暗殺の才能」
「......!」
 私に暗殺の才能があると殺せんせーに言われた。遂に言われてしまった。
「渚は、、どうするんでしょうね」
 渚もわかっているだろう。自分に暗殺の才能があることを。あのときだって凄かった。鷹岡が私たちに復讐しようとしたとき、渚はあのとき自分の才能を、みんなを守るために使った。だが私はどうだろうか。私は自分の暗殺の才能を、みんなのために使えるだろうか。
「......やっぱり私は......殺すことしかできないんでしょうか」
「え?」
「あの、、、、、、悩み、、、聞いてくれますか?」
「......はい」
 今から私は殺せんせーに話す。まだ誰にも言ったことがない、信じ難い私の個性のこと。私の過去と深い関係のある個性。
 
「私の個性、前世なんです」
皆様遅くなりました。にしかどです。
今回長かったですよね。スクロールお疲れ様です。
もしかしたら、急展開すぎかもしれませんがすいません。ちょっと早く個性前世ですって言いたくて。
次回は進撃の巨人要素?多めです。


次回、私の個性と前世の記憶
 

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