第12話

閑話 羽芥という女
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2023/04/27 12:55
 
「ナイフの握り方を知った私は怖いよ?」
 そう言った彼女の表情は笑顔だった。そしてそれを見た誰もが、美しいと感じた。彼女が怒っているのを知りながら。
 
 
......あなたちゃん、大丈夫だよね......?
 あなたちゃんは笑顔を見せた後、手を叩き空気を変えた。「さ、鷹岡先生、全力で殺り合いましょう?」と言って。
 僕は他人の機嫌を見極めるのが得意なようで、ロヴロさんからも必殺技を教わった。だから少し、他人の機嫌を見極めるのには自信がある。
 だから僕は、他より少し、あなたちゃんの感情がわかってしまった気がする。あなたちゃんが今、どういう気持ちなのか。
 今あなたちゃんが、怒りや憎しみの感情を抱いているのはみんなわかるだろう。だが、もうひとつの気持ちはどうだろうか。
 僕には少し、ほんの少しだが、あなたちゃんの表情から、悲しみが見えた気がする。少しだからか単なる勘違いか、その悲しみには、その体じゃ抱えきれないほどの思いがあるように見えた。
 なんて言うか、量は少ないけど濃度がすごく濃いような、表は少なく見えても、本当はもっと膨れ上がっているような、あなたちゃんは一人で、ものすごい重圧を抱えているんじゃないかと思った。
 けれどそれは気のせいだったのか、あなたちゃんは今、鷹岡先生と楽しそうにやり合っている。
「おい、全然当たってねぇぞ」
「う、うるせー!」
「ハッ、ヤケになってやがる」
 訓練では見たことのないあなたちゃんだった。鷹岡先生が殴ろうとすると、あなたちゃんは避けるか受け止めるかで、逆にあなたちゃんが殴ろうとすると、鷹岡先生は避けきれずよく当たる。
......凄い、、、、、
 今この場にいる誰もが思っていることだろう。しかも二人ともスピードが凄くて、目で追うだけで精一杯なのに、当のあなたちゃんは涼しい顔で、しかも喋りながら戦っている。
「そういえばアイツ、ナイフ持ってたよな? あの様子だとすぐにナイフ当たるんじゃねぇか?」
「でも振らない......まさか、泳がせてるのか......!?」
「え!? 嘘でしょ!?」
 僕もまさかとは思うが、今のあなたちゃんならあり得るかもしれない。何故ならさっきのあなたちゃんを、僕は知っているからだ。
 あなたちゃんが鷹岡先生と一対一で戦いたいと言って、烏間先生が理由を聞いたとき、あなたちゃんからの圧がすごかった。
 昔を思い出すような、遠い目をしていた。けれどその瞳は昔を懐かしむような柔らかい目ではなく、後悔や憎しみ、言葉では言い表せないほどの怒りを宿していた。
 そして今のあなたちゃんを見ると、どこか楽しんでいるように見える。例のそのとき相手にしていた敵への報復を、代わりに鷹岡先生にしているようだった。
......鷹岡先生が距離をとった!
 流石の鷹岡先生も辛くなったのか、あなたちゃんと距離をとって少し休んでいる。その様子を見て、あなたちゃんは少し残念そうな顔になる。
「......なんだよ、もう終わりか? じゃあそろそろナイフ当てた方が良いか? ......じゃあ、何処にナイフ当てようか」
 そう言って笑顔を見せる。その笑顔は少し、いや、とても狂気的な笑顔だった。
 
 
 あなたちゃんが少し距離をとる。そしてナイフを構えた。
「......殺してあげる」
 そう言って鷹岡の方へ走った。そして顔目掛けてナイフを振り下ろ──────
「あなたさん!!」
「ッ!!」
......そうだ、、、今、あなたちゃんは本当に鷹岡先生を、、、、、
 殺そうとしていた。
 それを今烏間先生が止めた。
 だが僕は見とれていた。あなたちゃんの殺気に怯む鷹岡先生を。その、隙のないナイフや体の動きを。ターゲットを見定めた、暗殺者アサシンの顔を。
 
 
「......ちゃんと、やります」
 そう言ってあなたちゃんは、鷹岡先生にナイフを当てた。鷹岡先生は僕がしたときよりも震えていた。いや、よく見たら気絶していた。あなたちゃんの先程の殺気や勢いは、もうなくなっていた。
 みんな呆気にとられていた。それもそうだろう。あんなあなたちゃん、みんな始めてみたんだから。みんなの視線はあなたちゃんに向けられている。
「......」
「......」
 その場の沈黙を破ったのは殺せんせーだった。
「そこまで。......あなたさん、よく頑張りました。今日はもう帰って良いですよ」
「......ありがとうございます。、、じゃあ、お言葉に甘えて。さようなら」
「はい、さようなら。......ではみなさん、体育の時間はもう終わりです。教室に戻りましょう」
「......はい......」
 
 
 その後
 僕らはどこか重い足取りで教室へと歩みを進める。そして下駄箱。そこで丁度、教室から荷物を取ってきたあなたちゃんとすれ違った。
「......あの、あなたちゃん、!」
「ごめん渚、! 、、また明日」
そう言ってあなたちゃんは早足に下駄箱を出ていった。涙を流しながら。
「っ、、、」
......僕に出来ることはないだろうか?
 僕に出来ることは何もない。わかっていた。あなたちゃんが話していた、とてつもない怒りも悲しみも、僕には理解できないし、味わいたくもない。僕にはそれだけの覚悟がないから。それでもなにか出来ることはないのだろうか。僕はそう思わずにはいられなかった。
 
 
 
長らく投稿せずすいません🙏
そして今回もよくわかんない話になっちゃってすいません。やっぱ主人公じゃない視点って書くの難しくて。
それと、多分次回から結構話飛ぶんですが、ご了承ください。
そしてお気に入り⭐️100突破!❤️は200突破!
マジありがとうございます🙇
現時点でも138人の方がこの小説を待ってくれているんだど思うと、本当に感謝の気持ちで一杯です。
コメントも作者のモチベーションがすごく上がるのでありがたいです。
次の話も遅くなるかもしれませんが、待っていていただけると幸いです。

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