私は今、壁と湊の間に挟まれている。
心拍数が上がり、心臓が熱を帯び始める。
どんどん距離を詰める湊と俯き続ける私。
を、撮影する春と遠巻きでニヤニヤ笑うだけの蓮。
うわあああああ無理無理無理やっぱ無理!
なんでこんなことに……
なんて春が言ったせいだ!
休み時間をどう過ごすかは私たちの自由らしくて、そこで春が提案したのが、「青春ごっこ」。
春の少女漫画愛が止まらない。
やりたくてもできなかった青春。
伝えたくても伝えられなかった言葉。
私にも、ある。
ぎゅっと携帯を握りしめて、笑顔を作った。
無理やり湊に肩を組まれた蓮が、ずるずると連れていかれる。
春と蓮、私と湊。
春にあって私にないものって、なんだろう。
びくっとしたのをバレないように、ゆっくり振り向く。なぜか春がニヤニヤしている。
そして私の耳元でこっそり囁いた。
って、そういうことだったのかあああ!となりながら壁ドンされている私。
うううう近い、なんかめっちゃ香水のいい匂いするし視界が湊でいっぱいの中で目なんか見れるわけないし、うううう。
春は最高のアングルを見つけようと私たちの周りをぐるぐるしてるし。
いや状況は嬉しいんだよ!?もう春様ありがとうございます、なんだけどさ!
もし、もしこの状況を誰かに、湊を他に好きな子とかに見られてたら……………………
あ。
あ、そういうこと。
早く終わらせたいのか、湊は。
私ばっかりだ。
何でだろう、悔しい。
出るな、涙。こらえろ、私。
壁に伸びている湊の腕を、ぎゅっと握った。
よし、見れた。
真っ直ぐ湊の目を捉えた。
え。
パシャッ
湊がバッと私から離れた。
広がった視界に、春と蓮の驚く顔が映る。
離したその手で、赤い顔を隠す湊。
待って待って、何その反応。
なんで?直前まで余裕そうにしてたじゃん!
ああもう!
さっきまであんなドキドキしてたのに!
めっちゃいいの撮れた、って言いながら春が自信満々に見せにきた。
なんか、私が喧嘩売ってるみたいになってる。
多分、いろんな気持ちが混ざって、力んだんだと思う。思った以上にガッツリ腕を掴んで、私が湊をカツアゲしてるようにしか見えない。
それに相まって、湊は照れたと同時に驚いた顔をしてるから、余計に。
2時間目が、あと5分で始まる。
ごめんね、春、早めに切り上げて。
でも、ありがとう。嬉しかった。
あの写真あとで送ってもらおう。
ちゃんとこの気持ちも一緒に、忘れずに覚えておこう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!