第3話

第三話 紅葉
42
2022/09/17 12:12
私は今、壁と湊の間に挟まれている。
心拍数が上がり、心臓が熱を帯び始める。
朝美
朝美
あの、もう少し離れて
湊
でもそれだと
春花
春花
二人とも!もっと寄って♡
湊
ほら☆
どんどん距離を詰める湊と俯き続ける私。
を、撮影する春と遠巻きでニヤニヤ笑うだけの蓮。
湊
ねえ朝、
湊
こっち向いて☆
朝美
朝美
それは……
春花
春花
朝ちゃん!ちゃんと目を合わせて!
うわあああああ無理無理無理やっぱ無理!
なんでこんなことに……
春花
春花
「青春ごっこ」、したいな♡
なんて春が言ったせいだ!
休み時間をどう過ごすかは私たちの自由らしくて、そこで春が提案したのが、「青春ごっこ」。
春花
春花
あの頃やりたくてもできなかった青春の数々を!今ここでやり尽くしたいです♡
朝美
朝美
出たよ春の少女漫画モード
蓮
嫌な予感
湊
具体的に言うと?
春花
春花
壁ドン顎クイ床ドン肩ズン、あとは
蓮
多い多い
春の少女漫画愛が止まらない。
湊
そういうことなら!早速お二人さんどうぞ☆
蓮
えっ
やりたくてもできなかった青春。
春花
春花
蓮くん、お願い
伝えたくても伝えられなかった言葉。
湊
カノジョの気持ちに答えてやれよ☆
私にも、ある。
ぎゅっと携帯を握りしめて、笑顔を作った。
朝美
朝美
私、カメラマンやるよ
湊
隣の教室空いてるっぽいからそっち行こ☆
無理やり湊に肩を組まれた蓮が、ずるずると連れていかれる。
春と蓮、私と湊。
春にあって私にないものって、なんだろう。
春花
春花
朝ちゃん
びくっとしたのをバレないように、ゆっくり振り向く。なぜか春がニヤニヤしている。
そして私の耳元でこっそり囁いた。
春花
春花
私ばっかで終わらせないから、安心してね
朝美
朝美
……え?
って、そういうことだったのかあああ!となりながら壁ドンされている私。
うううう近い、なんかめっちゃ香水のいい匂いするし視界が湊でいっぱいの中で目なんか見れるわけないし、うううう。
春花
春花
湊、もう少し手の角度を……そう!
春は最高のアングルを見つけようと私たちの周りをぐるぐるしてるし。
いや状況は嬉しいんだよ!?もう春様ありがとうございます、なんだけどさ!
もし、もしこの状況を誰かに、湊を他に好きな子とかに見られてたら……………………
湊
朝、こっち向いてくんないとこれ終わらないんだけど!
あ。
あ、そういうこと。
早く終わらせたいのか、湊は。
朝美
朝美
そっか
私ばっかりだ。
何でだろう、悔しい。
出るな、涙。こらえろ、私。
壁に伸びている湊の腕を、ぎゅっと握った。
朝美
朝美
これで、いい?
よし、見れた。
真っ直ぐ湊の目を捉えた。
湊
っっっ
え。

パシャッ

蓮
おお、真っ赤
湊がバッと私から離れた。
広がった視界に、春と蓮の驚く顔が映る。
湊
ちがっこれはっ
離したその手で、赤い顔を隠す湊。
待って待って、何その反応。
なんで?直前まで余裕そうにしてたじゃん!
蓮
照れちゃった?♡
湊
え、だって、
湊
さ、触られたから……
朝美
朝美
え!ちょ、ちょっと待って言い方!
蓮
えっうそ
朝美
朝美
違う違う!つい、つい!だよ!
こっちもなんか緊張してきて
ああもう!
さっきまであんなドキドキしてたのに!
春花
春花
見て見て見て
春花
春花
私カメラのセンスあるかも
めっちゃいいの撮れた、って言いながら春が自信満々に見せにきた。
蓮
蓮のこの顔、よく撮れたね
春花
春花
でしょ?
朝美
朝美
え、待って
朝美
朝美
思ってた感じと違う
なんか、私が喧嘩売ってるみたいになってる。
多分、いろんな気持ちが混ざって、力んだんだと思う。思った以上にガッツリ腕を掴んで、私が湊をカツアゲしてるようにしか見えない。
それに相まって、湊は照れたと同時に驚いた顔をしてるから、余計に。
湊
あれ、青春ごっこって…
春花
春花
これはこれでいいじゃん♡
蓮
お前の照れ顔も見れたことだし
湊
写真に残るの恥ずかしい……
春花
春花
じゃ!次の青春ごっこは
朝美
朝美
あ!もうこんな時間だー!
2時間目が、あと5分で始まる。
朝美
朝美
教室戻ろう!それで次の動画来るの待とう!
春花
春花
えっもうそんな時間?
ごめんね、春、早めに切り上げて。
でも、ありがとう。嬉しかった。
あの写真あとで送ってもらおう。
ちゃんとこの気持ちも一緒に、忘れずに覚えておこう。

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