第117話

gold. (Draco.M)
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2025/11/05 10:00 更新












春の空気は、どこか懐かしい匂いがした。
冬の名残をわずかに残した風が、頬を撫でていく。

息を吸えば吸うほど、眠気が襲うほど心地よかった。














「楽しみなのは分かるけど、
 少し落ち着きなさい、人にぶつかるでしょう」














後ろで歩く両親はため息をついた。

そんな両親の注意をよそに、私は軽い足取りで人混みを抜けていく。














『ねぇねぇ!
 もうドラコいるかな?』


「いるんじゃない?
 あちらのご両親はしっかり者だし、
 いつも待ち合わせ時間より早く来てるもの」














長期休みに入るたびに、うちとマルフォイ家は家族ぐるみで顔を合わせる。昔からの付き合いだ。




食事会やショッピングをすることもあるし、子供の時はお泊まり会なんてざらにあった。 

まだ子供だった頃は、帰るのが嫌で二人揃って泣いていたらしいが、お互いそんなこと一つも覚えていない。

しかし、仲が良いのは今も変わらずだ。





学校も違えば、住む家も変わり、お互いの両親も忙しい。こうした長期休みでしか、彼とは会えない。

当然、彼に会うと思うと胸の奥が弾んで仕方がないのだ。










魔法使いたちが集う小さな村にある古本屋。
その前を通りかかったとき、視界の端に見えた金色の髪が記憶を一瞬で呼び覚ました。

胸の奥が一気に跳ね上がる。
気づいたら、足が勝手に動いていた。















『ドラコ!!』













その名前を呼んだ瞬間、彼の肩がぴくりと動く。

振り向いた彼は私を見た途端、驚いて目を見開いた。







そんな驚いてる彼をよそに駆け寄ると、勢いのまま胸の中に飛び込んでいた。






驚きの色を残したまま、それでも彼の腕は無意識に私を包み込んでくれた。

戸惑いながらも腕を広げてくれた仕草に、ためらいと優しさが混ざっていて嬉しくなる。














「おいっ……!」














腕の中に飛び込んだ衝撃で、彼の前髪がふわりと揺れる。息が触れ合うほどの距離に、彼の鼓動が早まっていくのがわかる。














「相変わらずだな…」














すぐに深いため息が頭上から落ちてきた。

呆れた様子を見せてくるが、私の思いついた突然の行動に対して拒まないところが、本当に変わっていなくて安心する。

つい私は満面の笑みをこぼした。














『久しぶり!元気だった?』













見上げると、ドラコは半眼で私を見下ろしていた。













「……まぁ、なんとか」













そっけない返事も、変わらなくて安心する。





しかし、以前の彼とは違って見えるところはいくつかある。

背が伸びたのはもちろんだが、いつもおろしていただけの髪もほんの少しウェーブがかかっていた。





服装だっていつも整ってはいたものの、雰囲気が少し変わったように見える。いい具合に着崩しているといえばいいだろうか。

いつもなら黒のジャケットに身を包み、近寄りがたいほどのオーラを放つ彼が、白いシャツを一枚でラフに着て、そのうえ袖をまくり上げている。


わたし好みの服装ではあるが、褒めれば彼はきっと「お前のためじゃない」と怒るだろうから黙っておこう。



しかし、首元に今までつけていなかったネックレスが控えめに見え隠れしていたのは、どうしても見逃せなかった。














『ねぇ、さては彼女できた〜?』














軽く聞いたつもりだったのに、彼の動きが一瞬止まった。

そして、ほんの少し間があった後、視線を外しながら口の端だけで小さく笑ったのが見えた。














「………想像に任せる」













その言葉を、本屋から少し遅れて出てきた両親がちょうど聞いてしまったらしく、目を見開きながら彼に問う。














「……お前、恋人ができたのか…?」













そんな両親の言葉に、彼は呆れた顔で私に視線を送りながら、額を軽く叩いてきた。














「できていませんよ
 こいつが勝手に騒いでるだけです」













叩かれた額を抑えながらキッと睨むと、彼は知らん顔。
その態度に、ますますムッとして口を尖らせた。














『痛い〜、暴力だ〜』















何かやり返したくて、彼の整った髪を乱そうと手を伸ばすと、先に彼の長い腕が伸びてきて私の髪を乱した。

せっかく綺麗に整えてきたというのに腹が立つ。



本屋の前で騒ぐ私たちに、どちらの両親も呆れた様子だった。














「ドラコ、女性をいじめるのはやめなさい…」


『ほーら!ナルシッサさんの言う通りだ〜
 女の子をいじめるなんて最低〜』


生憎あいにく、お前を女だと思っていない」


『ふーん。それなら……
   ……あ、ちょっと!逃げないでよ!』















相変わらず素っ気ない態度を取る彼に、何か言ってやろうとしたのに、彼は言いかけた言葉を遮るようにこの場から去ろうとした。













『ねぇー、待ってよー!!』














慌てて後ろから追いかけると、彼は肩越しにちらりとこちらを見て、歩幅をほんの少し緩めた。


私はやはり、この男のこういうところが好きだ。


言い合いは子供の頃から多い。
成長した今でも私たちは相変わらずこんな調子である。

毅然とした態度に腹が立つことも多少なりともあるが、彼は私に優しい。




その小さな優しさにわたしもちゃんと気づいているから、今でも仲良く居られるんだと思う。














『そういえばさ、
 昔ここで一緒にアイス食べたの覚えてる? 
 二人で口のまわり真っ白にして』


「……そんなこともあったな」













彼は呆れたように笑い、ポケットに手を突っ込んだ。














『だんだん楽しくなっちゃって、
 服にアイスをドロドロにつけて遊んでさ
 私のパパに怒られたよね。笑』


「お前は本当に
 どうでもいいことばっかり覚えてるな」


『どうでもよくないよ!
 大切な思い出だもん』














ムッとして言い返すと、彼は僅かに口元を緩めた。







一歩先を歩く彼の影が、低く傾いた陽の光に長く伸びていく。その隣に立つと、昔のように肩を並べて歩いた。






店のショーウィンドウの中の色鮮やかな雑貨を眺めていると、店のガラスに映った私たちをがふと目に留まる。



私たちが昔と違うことは、同じ身長だったくせにいつの間にか彼に追い越されてしまったことと、

背が高くなった彼が颯爽と歩くその隣には、昔より大人びいた表情をした私が映っているということ。






子どもだった頃の私たちはもういなくて、大人になっていたことを静かに実感した。

そして、言葉がぽつりと漏れた。













『会いたかったの、あなたに。
 だから会えて嬉しい』













自分でも驚くほど自然に出た言葉。

彼は一瞬足を止めると、少し眉を上げてこちらを見た。
そして、ふっと笑みを浮かべ、静かに返事をした。














「僕もだ。」














そんな彼の表情が、胸の奥をくすぐらせた。










広い屋敷である彼の家で一緒にかくれんぼをしたり、転んで膝をすりむいたときは、彼が手を差し伸べてくれた。

夜中、トイレまでの暗くて長い廊下を歩くのを怖がった彼を、私が手を繋いでつれていったこともある。

もちろん、プライドが高い彼の性格をちゃんと分かっているから、『私がトイレに行きたいから着いてきて』と言ってあげたことは今でも内緒にしてあげている。










私たちは、お互いがお互いを必要な時に手を差し伸べ合っている。

全て鮮明に覚えているわけではないが、肌に触れた風や笑い声で、薄っすらと記憶が蘇る。


































その後は、食事会まで少し時間があるため、村一番の栄えている大通りを歩いた。


母たちはショッピングへ、
父たちは食事前の景気付けにパブで一杯。


理由をつけて呑みたいだけのように思えるが、なんとなくショッピングより面白そうで、私たちは父たちについて行くことにした。









古い煉瓦造りのパブに入ると、扉を開けた途端、低く響く男たちの笑い声と、ビールと店内を包む木の香りが鼻をかすめた。

昼下がりの光がステンドグラス越しに差し込み、テーブルの上に琥珀色の模様を落としていた。













「お前たちをここへ連れてきたことがある
 覚えているか?かなり昔のことだが」













そう言われて辺りを見渡した。

すごく記憶に残っているというわけではないが、カウンターの奥で店主が磨き上げたグラスを並べている様子を見たとき、その手元のリズムと音がどこか懐かしく思えた。









店内で一番奥のテーブル席へと腰を下ろすと、彼と私に問答無用でバタービールが運ばれてきた。

もちろん、父たちはウイスキーである。
酔っ払う気満々だ。








運ばれてきたグラスの表面を小さな泡がゆっくり上っていくのを眺めながら、徐々に意気揚々と話す父の昔話に耳を傾けた。  


酔っ払うと、私の父はとにかく話が止まらない。
テーブル越しに身を乗り出しては、昔の武勇伝やら、どうでもいい世間話を語る。




一方、彼の父親。
ルシウスというと、あの冷静沈着な印象そのままに、最初は軽く相槌を打つだけだった。

けれど、グラスを傾けるうちに、その表情が少しずつ柔らかくなっていく。









その様子を見て、私は思わず笑ってしまった。
楽しそうに話す父を見るのも、徐々に笑顔が浮かぶ彼の父を見るのも大好きだ。













そのとき、テーブルの下で何かが私の肘をつついた。

ビクリとして隣を見ると、彼が悪戯っぽい顔をしながらメニュー表に視線をやっていた。







開かれたページには“Mead(ミード)”の文字。

黄金色の蜂蜜酒。アルコール入りだ。
もちろん、未成年の私たちにはご法度のもの。






けれど、彼の悪戯な表情で言いたいことはすぐに分かった。私は小さく唇だけを動かして、『賛成』と呟く。






それからは、まるで以前から作戦を練っていたのかと思うほど、彼は何食わぬ顔でアルコールを注文した。

父の話に熱中している隙を狙い、ルシウスさんが一瞬視線を外したその瞬間に、まるで当然のような顔で店員にミードを頼んだ。






やがて届いた琥珀色のグラス。

何を頼んだのか父に聞かれたが、適当にジュースだと言って誤魔化した。




ひとくち口にすると、舌の上に甘い熱が広がっていく。
想像よりもずっと強いアルコールの刺激に、喉が焼けて、思わず顔を歪ませた。







ふと隣を見ると、彼も同じようにグラスを傾け、こちらを見て笑っていた。

目が合うたびに、二人してこっそりと笑い合う。



やはり彼が隣にいると、楽しいことばかりだ。














「昔お前たちが路地裏にある店に入ってな
 そこでカップを割って…」


『もう〜!パパいいよ、その話。
 何回も聞いた!』














ため息をついてやっても、父たちは笑顔を止めない。






ここの村の大通りを外れた小さなアンティークショップに、子供の頃にふたりで店に入った。

子供ならよくある話だとは思うが、店にあるものを使って遊んで騒いでいたのだ。それだけなら店主に注意されるぐらいで済んだはずだが、なにせ置いてある稀少なカップを割ってしまった。

強面の店主に怒鳴られて、私は大泣き、彼は不貞腐れたという話を、父は酔っ払うと何度もする。

思い出話を聞くのは悪くないけれど、少し飽き飽きしてきた自分もいた。






そして、父の話はまるで終わる気配を見せなかった。













「なら、これは覚えているか?
 そのカップは弁償したんだがお前は…」














そう言ってまた新しい思い出話が始まってしまった。



私は苦笑しながら、グラスの底に残った酒を一気に飲み干した。甘い香りと少しの熱だけが喉を過ぎていき、ほんの少し、外の風が恋しくなる。



  



完全に選択ミスだ。
母たちのショッピングについて行けばよかったかもしれない。

そう、後悔し始めた時だった。
隣に座っていた彼が、グラスを揺らしながら低く呟いた。













「……行ってみるか」














独り言のように落とされた声に、思わず私は顔をあげた。

何を言ってるのか分からず戸惑っているうちに、彼はスッと立ち上がり、椅子の背に掛けてあった私のコートを手に取った。













「父上。
 食事会まで、まだ時間がありますよね。
 その店へ久しぶりに行きたいのですが、
 ふたりで。」













一瞬、父たちは顔を見合わせてから、どちらともなく笑った。













「行っておいで
 もう壊すものもないだろうしな」














からかうような声と笑いが返ってきた。



そして、気づけば私は彼に腕を引かれて席を立っていた。賑やかなパブの扉を彼が押し開けると、まだ少し肌寒い空気が頬に触れた。


自分から店に行こうと言う姿は珍しい。
昔から物欲のない彼は、普段なら母たちのショッピングに黙って後ろをついていくだけだ。






 






『珍しいね。
 買いたいものでもあるの?』














その問いに返事はなく、ただ静かに腕を引かれた。











その店がある場所は大通りから離れた路地裏で、騒がしさとは別世界で、とても静かだった。

路地裏と聞けば、薄暗くて浮かない場所をイメージするだろうけど、そんな想像とは全く別ものだ。





夕陽が顔を出す前の空はまだ少し青が残り、柔らかい日差しがレンガの壁に落ちる。

路地の奥からそっと風が抜けて、誰かの洗濯物を揺らした。タオルがパタパタと音を立て、ほのかに洗剤の匂いが漂う。




足元では、野良猫がひとつあくびをして丸くなった。
 


人通りは少ないが、どこか温かくて穏やかな空気が流れている。まるでこの小さな路地だけ、時間がゆっくり流れているみたいだった。













『ねぇねぇ、なんか喋ってよ』













黙々と路地裏の奥へと進んでゆく彼の背中を眺め、返事のない背中に話しかける。

手首を引かれ、立ち止まる暇もなく彼のあとをついていく。













『ドラコ〜、返事し…』














そう言いかけた瞬間、手首を掴む彼の力がわずかに強まった。

  



次の瞬間、背中が壁に当たった。
煉瓦レンガの冷たさが服越しに伝わり、息が止まった。

視線を上げると、逆光の中に彼の影が私の頬をかすめた。彼の表情は私をまるで挑発するように、唇の端がわずかに上がっている。














『……うわぁ……悪い人。
 目的はこれだったの?』














わざと軽く冗談めかして言うと、彼は小さく首を傾け目を細めた。
 
その表情の奥に、言葉にならない何かが確かに揺れた。













『意地悪したからやり返したくなった?』













その挑発に乗るようにヘラヘラと笑っていると、彼の手がそっと私の首の後ろに回る。

逃げ場のないことを、身体がすぐに理解した。













「親の前で彼女ができたか聞くなんて
 お前も相当攻めたなぁと思ってな」














耳元で低く囁く彼。


息がかかるほどの距離で、唇の端に微かな笑み。
視線が重なり、ほんのわずかに呼吸が乱れる。




逃げられない状況でもまだかろうじて動く右手で、彼の髪に手を伸ばし、くしゃっと乱した。


前髪の間から覗く青い瞳が、深く絡み合う。
その視線に、身体の奥が小さく揺れる。














『ドラコがどんな顔するのか気になっちゃってさ』














二人の距離は、ほんの数十センチ。
 
壁に背中を預け、向かい合う視線の先で、時間が緩やかに止まったかのようだった。









襟元から覗く彼のネックレスに指を伸ばし、そっと絡め取った。上品に柔らかく光るゴールドのネックレス。

シルバーが似合う彼にはどこか不釣り合いだが、まるで誰かの色に染まったように見える。

その誰かの影をまとったような姿が、どうしようもなく愛しく思えた。













「お望み通りの表情は見れたか?」


『うん。困ってる顔も可愛かった』


「………やめろ」









 




ヘラヘラと笑う私に、彼は困ったように眉をひそめて小さくため息つく。













『あ、それか
 私とキスしたくてここに連れ込んだ?笑』













そんなわたしの言葉が落ちた瞬間、沈黙が包んだ。

路地裏の静けさが一層深まり、狭い通りを風がすり抜ける音だけが響く。








彼はたくらむように微かに口角を上げると、ゆっくり近づき、指先が私の頬に触れた。
 
その表情に、背をなぞるような緊張と熱が同時に広がった。






逃さないと言わんばかりに青い瞳が私を見据えるが、そんな視線にずっと耐えられるはずもなく、私は彼から顔を背けた。

息を詰める沈黙の中、路地裏の空気が二人の間で震える。














『……う、うそ。冗談です。
 ちょっと近いよ、離れて…』 














自分から彼を挑発するような言葉をかけといて情けないが、居ても立ってもいられずつい彼の胸を押し返した。





声はほんの少し震え、照れと戸惑いが入り混じる。




そんな私の仕草を見て、彼は唇をわずかに曲げ、楽しげに小さく笑う。その不敵な笑みに、胸の奥がくすぐられるように熱くなる。














「自分から挑発しておいて、その態度は何だよ」













言葉の端に含まれる誘惑と甘さ。










次の瞬間、
彼の手が私の背中に回り、身体を引き寄せられた。

同時に、温かいものが唇に触れる。







最初は確かめるように軽く触れた唇も、
すぐに深く重なり、世界が音を失っていく。
   






驚いて身動きがとれなかった私も、次第に力が抜けていき、気付けば彼の肩に手を回していた。

彼の息遣いが耳元で微かに震え、思わず目を閉じた。







息継ぎのたびに唇が一瞬離れるが、視線が絡むと、また深く重ねる。

そんなことを何度も繰り返した。








彼の手が私の腰に回り、強く引き寄せられる感覚に、心臓が早鐘のように打つ。

唇が触れる度、ただ甘いだけじゃなく、心が溶け合うような温もりが広がる。









ゆっくりと身体が離れると、彼はほんのわずかに笑みを残したまま私を見つめた。

互いに息を整えながら、彼が低く呟く。













「両親に言うタイミングは、
 お前に任せるとは言ったものの。
 いつまで言わないつもりだ」


『言うタイミング見失っちゃって…笑』














誤魔化すように笑う私に、彼は呆れながらもまだ何か言いたげだった。








空を見上げると、さっきまで雲ひとつない空は僅かに灰色がかり、今にも雨が降りそうだった。

先ほどまで眠そうにあくびをしていた野良猫も、どこかに逃げるように私たちの足元の間をすり抜けていった。













『……雨降りそう。
 パパたち迎えに来るかもよ?
 その前にみんなのとこ戻ろっか』













そう言って、腕の中からうまくすり抜けると、彼の手を引き、大通りの方へと足を向けた。





しかし、彼はその場から動こうとはせず、私の手をまた引いて、自分の胸へと引き寄せた。

せっかく彼から逃げ出せたというのに、呆気なく捕まってしまった。













「足りない。」














子供のように拗ねた口調で呟く彼の声が、耳元でくすぐったく響いた。














「今ので満足できたのかよ」













そんなことを呟く彼が可愛くて、思わず首元に両手を回して抱きしめてしまった。












雨の日に水たまりで跳ねて遊んだり、

お互いの家でゲームやおままごとをしたり、

父に怒られながら得意げに木登り対決なんかしたり、

深夜、両親の目を盗んで内緒でお菓子を食べにキッチンに忍び入ったり、












もう、子どもの頃の私たちはもう居ない。











次会えるまでの期間が寂しくて、
別れ際に両親に抱っこされて泣き喚いたり、

「また遊ぼうね」と簡単な約束を、
小指で誓ったあの頃の私たちももう居ない。











大人になった今、

学校の外出許可が出ればお互いに導かれるように会いに行き、別れ際は寂しさを紛らわすようにギリギリまで触れ合う。

寂しさを埋めるように、毎週文通でのやり取りだってする。

久しぶりだね、と平然と両親の前で挨拶したが、実際会ったのはつい1週間前だったりする。








_____私たちは、もう随分と大人になった。













『私も足りないかも』













その言葉を最後に、路地裏に並ぶ古びた壁に映し出された影が、また一つになる。














昔の思い出が静かに蘇るたびに、私たちが大人なったことを実感し、それが私たちの熱を更に燃やしてゆく火種となる。


過ぎた時間も、今の熱も、ひとつに溶けていく。


そして、あの頃よりも深く、お互いを想い合う。













「好きだ。」















愛情が滲んだ彼らしい端的な言葉に、照れくさそうに微笑んだ私の首元で、ゴールドのネックレスがかすかに揺れた。

















  《gold.》 fin.




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