ハロウィンの日だけ、ホグワーツの裏庭に光を宿す“魔法のかぼちゃ畑”が現れる。
風に乗って漂う甘い香りとロウの匂いが、冬の訪れを静かに告げていた。
今夜はハロウィン。
校内は仮装した生徒たちで大賑わいだというのに、こんな辺境な場所で、地味な作業をひとり黙々とこなしている。
仮装パーティーの真っ最中である大広間から、音楽と笑い声が聞こえる。そんな中、私はハグリッドに頼まれて、ひとり裏庭でかぼちゃのランタンに火を灯していた。
あまりに地味な作業で、ため息しか出ない。
『まったく、なんで私が……』
顔型に切り抜かれたカボチャの中へ、キャンドルをひとつずつ入れていく。それも、いくつもいくつも。
数えるのも馬鹿らしくなるほどの数のカボチャが、闇の中にぼんやりと浮かび上がっていた。
こんな面倒な手伝いをさせられている理由。
それは単純に、
私が“かぼちゃ好き”として学校中に知られているから。
かぼちゃが好き、というくだらないその理由で、ハグリッドに手伝いを頼まれたのだ。
秋になるたびに寮の食卓を埋め尽くすかぼちゃ料理に、うんざりしている生徒が多い中、私だけは嬉々としてスープやパイに手を伸ばしていた。
どうやらそれが決定打になったらしい。
だからって、この面倒な手伝いに推薦されるのは当然望んでいない。自分が任されるのが嫌だからって、わたしを勝手に立候補した友人を恨む以外何物でもない。
ブツブツと文句を言いながらも、数えきれないほどのかぼちゃを目の前に、キャンドルを入れては炎を灯す。
そんな作業を何度も繰り返した。
『……ほんと最悪』
ため息をついた瞬間、背後から声が落ちてきた。
「お前もいたのかよ。」
気怠そうな声。
顔を上げるまでもなく、誰だかすぐに分かる。
手を止めて振り向くと、あからさまに面倒そうな顔でこちらを見ていた一人の男。
月光に照らされて、影が長く地面に伸びている。
「こんな時こそ魔法でどうにかならないのか
こんな面倒な作業。」
彼はいつものように不機嫌な顔で、ため息をひとつ。
いや、二つ、三つほどは吐いた。
『なに。
あんたもカボチャ好きなの?』
わざと軽口を叩くと、彼は肩を落として私の隣にしゃがみ込んだ。
右手に握りしめた杖に、彼が「インセンディオ」と囁くと、杖先に小さな炎が灯る。
その炎をキャンドルへと近づけると、柔らかな光がかぼちゃの中でゆらゆらと揺れた。
「まったく、かぼちゃが好きってだけで、
よくこんな罰みたいな仕事引き受けたな。」
『ちょっと?やめてよね
好きだけど、これは別問題です〜』
「こんな面倒な作業を
好んでやる馬鹿がどこにいるんだか」
「……あんたうるさいわよ。
私だって好きでやってるわけじゃないし。」
「でもかぼちゃ相当好きだろ?」
「話聞いてる?
それとこれとは別問題だって言ってるでしょ」
そんないつもの調子で、お互い馬鹿を言いながら作業を進めた。
うるさい人がひとり増えて一瞬嫌気がさしたものの、時間の流れが少しだけ軽く感じさせた。
杖先に灯した炎をぼーっと見つめながら、私は呟いた。
『こんな仕事、
手伝わされてるあんたも可哀想だね。
特に理由もないのに指名されちゃったの?』
「……あぁ」
『気の毒。』
炎の光が、彼の横顔をオレンジ色に染めて揺らめく。
夜風に混じる煙の匂いと共に、彼の香水の香りが鼻を掠めた。
・
・
どれくらいの時間が経ったのか分からない。
文句を言いながらも二人で作業を続けていると、気づけば夜はすっかり深くなっていた。
私はふざけてかぼちゃのランタンを頭にかぶり、彼を笑わせたりして。文句を言い合い、笑い合い、冗談を交わしながら、気が付けば全てのランタンに灯がともっていた。
一人でやっていたら今頃泣いていたかもしれない作業も、彼となら驚くほどあっという間だった。
『やっと終わった〜!
てか、これだけ並ぶと可愛いっていうより、
ちょっと怖いね』
腰を抑えて、背伸びをしながら笑う。
ズラリと並んだランタンの列が、夜の闇の中でゆらゆらと光を放っていた。
その光景を見ながら、彼がぽつりと呟く。
「ジャック・オー・ランタン。」
『ん?』
「こいつらの名前」
『へぇ。由来は?』
「ランタンを持った男」
『男の名前はジャックだったりする?』
こくりと頷く彼を見て、思わず吹き出してしまった。
『でしょうね。笑』
私は近くにあったランタンを一つ手に取り、空に掲げながら言った。
優しいキャンドルの炎と、不気味に笑うかぼちゃの顔があまりに相反していて、笑ってしまった。
『じゃあさ、なんでハロウィンの日に
かぼちゃのランタンを灯すんだろうね?』
「いい霊を引き寄せて、
悪い霊を追い払うとかって聞いたことがある」
『ふーん、よく知ってんね』
ランタンの中で小さく揺れる灯を見つめながら、『でも、その通りかも』と声を漏らした。
「なぜそう思う?」
『んー?だってあんたが
ここに来てくれたおかげで楽しかったし。
一人だったらまだ泣きながら作業してた』
「……だから、良い霊を引き寄せたと?」
『うん。引き寄せた。』
わたしの言葉に、彼は呆れたように眉を顰める。
「僕を”霊”に例えるなよ」
『ふふ、いいじゃん。褒め言葉だよ。』
笑い飛ばすように彼の背中を軽く叩くと、顔を顰めながらもつられるように小さく笑った。
『さ、そろそろ戻ろっか。お腹すいた〜。
ってかもう、
かぼちゃのお菓子売り切れてるかも』
『ハグリッドのせいだ〜。』なんて愚痴を漏らしながら、軽い足取りで校舎へと歩き出すと、背後から名前を呼ばれた。
「あなた」
振り向くと、フワリと宙を舞いながら何かが飛んできて、わたしは慌ててそれを両手で受け止めた。
手の中には、可愛くラッピングされた袋。
中には大好きなかぼちゃのマフィンが入っていた。
『わっ!マフィン!!
これ大好きなの!』
思わず声を弾ませると、彼はフッと口元を緩め、校舎へと歩みを進めた。
その背中にスキップを踏むように、小走りで追いかけた。
『食べようと思って持ってたんじゃないの?
わたし貰っていいの?』
「お前に持ってくるためにここに来たんだ」
『えー!優しい!
好きになりそう!!』
「……やかましい」
いつも通りの、私達らしいやり取りだった。
ふざけたわたしに、彼はいつものように軽くあしらう。
私たちは仲のいい友人だ。
いや、親友とも言えるだろう。
それ以上でも、それ以下でもない。
_______________しかし
『あれ?ちょっと待って
私に持ってくるためにここに来たって言った?』
「言った」
『先生に手伝いに行けって
言われたからここに来たんじゃなくて?』
「言われていない」
『……意味わかんない
マフィン届けるためだけに来たの?』
「マフィンは、ただの後づけだ」
『なんでわざわざ作業手伝ってくれたの』
「さぁ?」
『さては、、
初めから手伝おうと思って来てくれたとか?』
「……どうだろうな」
『えー!もしそうだとしたら
わざわざ面倒な作業を好き好んで
手伝いにきた変態ってことになるよ』
「お前なぁ………」
また調子よくふざけたことを言う私に、呆れてため息をついた彼が振り向いた。
ふと視線が絡むと、ランタンの炎が彼の瞳に映りこんで光が揺れたのが見えた。
「面倒な作業をわざわざしたくて
ここに来る馬鹿はいないだろ」
『じゃあ、なんで?』
「好き好んで来る理由が他にあったからだ」
その言葉に、胸が一瞬止まる。
ふざけ半分で話していた空気が、一気に変わった気がして、胸の奥がきゅっと痛んだ。
その痛みの正体は、わからない。
ただマフィンを届けに来ただけではないと、馬鹿な私でも何となく察した。
あぁ、わたしに会いに来てくれたんだと、
普段見せない優しい表情で微笑まれると、嫌でも気付いてしまうものだ。
「お前顔赤いぞ。笑」
いつもの調子でからかう声に、私は我に返り、慌てて彼の背中を誤魔化すように叩いた。
そして顔を隠しながら、早足で彼を追い越す。
『ち、違うし…!!
ランタンのせいでそう見えただけでしょ!!』
そう。
わたしの顔が赤く見えるのは、ランタンの灯りのせい。
彼の顔が一瞬赤く見えたのも、きっとそのせい。
やっぱり、かぼちゃのランタンは役に立たない。
良い霊を引き寄せた気がしたけれど、前言撤回だ。
こんな意地悪な男を引き寄せてしまったじゃないか。
「顔赤いぞ」
『…….しつこい!!何回言うの!怒るよ!』
「もう怒ってるだろ」
『うるさい!!あんたも顔赤いくせに!!』
『ランタンのせいだろ』
『……嘘つき!!』
「なら、お前も嘘ついたことになるが」
『うるさい!!』
風が吹いて、かランタンの灯が一斉に揺れたあと、夜風が二人の言い合いをさらって、オレンジの光がまた一段と強く瞬いた。
まるで、夜の光がふたりを揶揄っているようだった。
校舎の明かりが近くに見え始めたころ、
彼の指先がほんの一瞬だけ私の手の甲に触れた。
偶然にしては、やけに優しくてくすぐったい。
「手繋ぐか?」
企んだように笑いながら手を差し伸べてくる彼を、キッと睨みつけながら、わたしはまた声を荒げる。
『っ、繋ぐわけないでしょ!!!』
わたしが思うハロウィンは、
仮装ではしゃいで、
お菓子をたくさんもらって、
そのお菓子でお腹いっぱいになる日。
_____つい5分前までは、そう思ってた。
でも今年のハロウィンは違うらしい。
ひとりの友人に心を踊らされ、
胸の奥が妙に熱くさせられ、
ほんの少し息苦しさも感じさせられ、
今まで味わったことのない日になった。
そんな夜を "特別" と呼ぶことを、
きっともうすぐ知ることになる。
胸の奥があたたかくて、
どうしようもなく騒がしい、
忘れられない特別な日に。
fin.
皆さん、ハッピーハロウィン🎃👻💕
もちろん大人しい可愛い子ちゃんもいいけど
ツンデレドラコ君は、ボケツッコミをいいスピード感でさらーっと話せる女の子とも相性いいと勝手に思ってる
ちなみに私はかぼちゃめっちゃ好き
なんなら、さつまいもとか、ジャガイモとか、栗とか、、
とにかく芋系?ホクホク系がたまらなく好き
最高の季節がやってきたぜぃ🍠













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。