《シロ視点》
短かったけど、とても楽しかったあの時。あの時から6年が経った。私は16歳になった。
お姉様はムーンヒルに行ったっきり帰ってこない。会いたい。家には使用人がいるけど、寂しくてたまらない。1人や2人減っただけでも生活ってこんなに変わるもんだな。本当にそう思わされた。6年経った今、戦況もさらに悪くなっているみたい。相変わらずどこの国と戦っているのかは知らないけど、日に日に食料が少なくなっているのがわかる。ファリンの人々(戦に行ってない人)の大半は他国ヘ逃げていってしまった。ファリンの綺麗だった街はもう、原型をとどめないくらいに破壊されてしまっている。道には瓦礫が散乱し、怪我をせずに歩くだけでも精一杯である。たくさんの人々が死んでいく。もう、嫌だ。楽しかったあの日に1度だけでいいから戻りたい。お姉様に会いたい。クロに会いたい。…そういえば、クロはどうしているのだろう。確か、クロは私と同じ年だと言っていた。勉強をたくさんして、立派な天使になっているのだろうか。私のこと、忘れてないかな。クロとまた、遊びたい。6年経って、記憶もだんだん薄れてきている。お姉様の顔は、ずっと一緒に過ごしてきたから覚えてる。けど、クロとは本当に短期間の間しか一緒にいなかった。だからだろうか。どんどん記憶の中のクロの顔がぼやけていく。このまま、クロのことを忘れてしまうのではないか。忘れてしまうのが怖い。クロ過ごしたことを忘れてしまうのが怖い。…だから。
青空を見上げて私は思う。クロとお姉様も違う場所で同じ空を見ているのかな、と。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。