お姉様はムーンヒルに行ったっきり帰ってこない。会いたい。家には使用人がいるけど、寂しくてたまらない。1人や2人減っただけでも生活ってこんなに変わるもんだな。本当にそう思わされた。6年経った今、戦況もさらに悪くなっているみたい。相変わらずどこの国と戦っているのかは知らないけど、日に日に食料が少なくなっているのがわかる。ファリンの人々(戦に行ってない人)の大半は他国ヘ逃げていってしまった。ファリンの綺麗だった街はもう、原型をとどめないくらいに破壊されてしまっている。道には瓦礫が散乱し、怪我をせずに歩くだけでも精一杯である。たくさんの人々が死んでいく。もう、嫌だ。楽しかったあの日に1度だけでいいから戻りたい。お姉様に会いたい。クロに会いたい。…そういえば、クロはどうしているのだろう。確か、クロは私と同じ年だと言っていた。勉強をたくさんして、立派な天使になっているのだろうか。私のこと、忘れてないかな。クロとまた、遊びたい。6年経って、記憶もだんだん薄れてきている。お姉様の顔は、ずっと一緒に過ごしてきたから覚えてる。けど、クロとは本当に短期間の間しか一緒にいなかった。だからだろうか。どんどん記憶の中のクロの顔がぼやけていく。このまま、クロのことを忘れてしまうのではないか。忘れてしまうのが怖い。クロ過ごしたことを忘れてしまうのが怖い。…だから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。