第8話

リピートアフターミー
502
2021/12/11 08:05
挨拶の練習は翌朝も続く。
(なまえ)
あなた
おはよう。おはよう
自転車で登校中も、校門をくぐって昇降口へ向かうときも、

廊下を歩くあいだも、あなたはずっと1人で繰り返していた。

気合いを入れすぎて早く来たから他の生徒の姿はまだない。

教室にも一番乗りだ。
(なまえ)
あなた
(でも、チャンスかも?)
机にカバンを置き、すっと息を吸う。
(なまえ)
あなた
……お、おはよ
だめだ、声が裏返ってしまった。

もっと大きく。はっきりと。

思いっきり深呼吸して、もう一度。
(なまえ)
あなた
おはよ──
言いかけたと同時、教室の扉がガラリと開いた。



ふわりとあたたかい風が吹き抜けた気がして、思わず目を細めた。

太陽の光を背負って輝く柔らかな茶色の髪が現れる。
(なまえ)
あなた
(や、山田くん……!?)
誰もいない教室で1人で挨拶していたあなたは、

間違いなく不審人物だった。
(なまえ)
あなた
(消えたい……)
どす黒いオーラに包まれて下を向いた。

その時だった。




山田涼介
山田涼介
おはよう
聞きやすい低音の挨拶が返ってくる。

今のは誰に言ったのだろう。

教室にはあなたと山田くんしかいないのに。
山田涼介
山田涼介
シカト?  あなたさん
(なまえ)
あなた
( ──私?)
山田涼介
山田涼介
いや、完全シカトだし
(なまえ)
あなた
あ、ち……違……
うろたえて上手く言葉が出せずにいると、

山田くんの足音が近づいてくる。

あっという間に目の前までくると、背をかがめてぐっと覗き込んできた。

吐息が触れるほど近い距離から、有無を言わせぬ調子で告げられる。
山田涼介
山田涼介
はい。リピートアフターミー『お』
(なまえ)
あなた
……お?
山田涼介
山田涼介
『は』
(なまえ)
あなた
山田涼介
山田涼介
『よ』
(なまえ)
あなた
山田涼介
山田涼介
『う』
(なまえ)
あなた
……おは、おはよう!
あまりに自然に促してくるから、思わず必死に口を開いていた。
山田涼介
山田涼介
うん、オウムか
にこりともせず、かといって呆れたふうでもない。


(なまえ)
あなた
(おはようって……おはようって、挨拶できた。山田くんに)
かーっと頭に血が上る。頬が熱い。

心臓が激しくはねて、口から出てきてしまいそう。










女子生徒
女子生徒
はよー

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