該当する女子は大勢いるけど、一番先に思い浮かんだのはその不特定多数の女子ではなく、彼女のことだった。緑のハチマキを付けた、六組の方へ走る。
脚を組んで座っていたオスマン。
彼女の名前を必死に呼んだ。気づいたオスマンは、「私?」という風に人差し指で自身を指した。
オスマンにカードを見せると、彼女は観客席を覆う膝丈のテープを跨ぎ、私の手を取った。
ぐいぐいと力強く引っ張るオスマン。私の腕と、彼女の長い腕の分だけ離れて走る。
彼女はこちらを振り向いてそう言った。その顔はとても嬉しそうで、笑っていて、いつもの綺麗な顔のオスマンからは想像がつかないほど、可愛らしい無邪気な表情だった。
そんな彼女に負けないように一生懸命足を右、左と動かす。後ろから足音が近づいてきた。
余裕はないが振り返ると、オスマンと同じ緑のハチマキをした女子が男子の手を引いて走ってくる。
放送委員会による場内アナウンスが耳を掠める。ゴールまであと数メートル。
オスマンの握る手にも力がこもり、走る速さも上がった気がする。しかし、六組が私の隣に並んだ。
負けたくない。オスマンの速さには勝てないが、なんとか自分の足を必死に動かした。数歩でゴールテープ。それを一番に切ったのは、オスマンだった。
肩で息をしつつ、膝に手を置いて呼吸を整えるのがやっとな私に比べ、喋る余裕のあるオスマン。無邪気にはしゃいでいるが、まずは休憩をさせてほしい
六組の女子と思わしき子が、オスマンの肩を軽く叩いていた。
オスマンはというと、「めっちゃ集中して走ったわー」と笑って返す。六組の女子は、男子にお礼を言って彼を席へ返す。一位をとったら、ジャージにその勲章をつけてもらえるので、係員にその旨を伝えた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。