彼女のベッドから香る女子の匂い。俺がいくらシャンプーやボディソープに気をつかったところで、こんな香りは出ない。
甘くて、脳を直接揺さぶるような香り。そんな香りに包まれて、眠ることなんてできなかった。目を閉じれば彼女に包まれているような気さえして、気を抜けばその沼に落ちそうになる。
落ちたら最後、俺は良くまみれの化け物みたいになって、きっとあなたが幻滅するようなことをしてしまうだろうから。
あなたが失恋したらしい。俺の気持ちはあなたよりもずっと複雑なものだった。その恋を応援していたわけではない。
でも、いざあなたが目の前で落ち込んでいるのを見ると、奥歯を噛みたくなるくらい辛かった。良かったやん。そんなことは実際のところ1ミリも思えなかった。ただ、あなたが泣き止んでほしい。もっと楽しいことを考えてほしい。話なら聞く。
だから、笑ってほしい。
***
ふと、中学生の時にあなたの家に泊まりに行った時のことを思い出した。結局あの日の夜は寝れなくて、それはそれは酷い顔で家に帰ったんだった。
胸を張るあなたに、「頼もしいことこのうえないな」と言えば、クスクスと笑みを零す。予鈴が鳴り、彼女は「また後でね」と自分の席へ戻っていった。
新学期が始まり、数か月後に学園祭が行われる。二日にかけて行われる学園祭は、保護者や近隣住民は勿論、他校の生徒だってやってくる。
俺達は他校へ行って宣伝をしたり、中学校、小学校なども回って学園祭のポスターを貼ってもらうようお願いに行かなくてはいけない。俺とあなたはクラスの学園祭実行委員からお願いをされ、放課後を利用して仕方なく近くの工業高校へ向かった。
私達は中学の時もブレザーだったし、高校生の時もブレザーだ。中学ではリボンだったが、高校ではネクタイ。紺色のブレザーとチェックのプリーツスカート。代り映えしない制服だ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!