暗くて彼女がどんな顔をしているのか分からない。明るいところに行ったら、濡れた髪を乾かしてやらないと。
今度は真っ暗な所から人が登場した。目玉が飛び出て、口が真横に裂けた女のお化け。よく見れば目も、口も、映画やドラマで見るような精巧なものではないのに、「はっ…心臓口から出ちゃうかと思ったよ…」とあなた。
真上からスライムのようなものが降ってきて、ちょうどあなたの言葉と被ったらしい。彼女の語尾が伸びたのはそのせいだ。
先程よりも強く握られた手に、何か信頼のようなものを感じた。
自分の手にも力が入る。ただ、この時間も間もなく終わりを告げる。
ゴールが見え、恐らく最後であろう障害物までやってきた。そこは、人ひとりが横になってやっと入れるような場所で、まず先に自分が行く。
それからあなたが入ってきて、横歩きでその障害物を通る。刹那、ガサガサと音がして、自分の顔や体の脇を何か紙のようなものが動いた。
これは嫌やな…この閉塞した空間で、しかも耳元でガサガサ大きな音を立てられたら不快感しかない。
隣であなたが声を上げる。隣では、ドンドンと自分のところよりも大きな音を立ててあなたを驚かせていた。
自分の表情は見えないと思うが、だいぶ得意気な顔をしていたと思う。意地悪したくなって、なるべくゆっくりとその空間を通った。
ずっと、ずっと一緒にいたはずなのに。なんで俺は彼女の異変にすぐ気づかんかったんやろう。
それはほんまに嫌がってる時の声やって。
空間から出ると、まず右手からぶちっという無機質な音が聞こえた。繋いでいた紙が切れた音。離された手。開かれた扉。一気に光を浴びて、一瞬怯んだ。ただ、あなたはそれも気にせず廊下へ飛び出した。どうしたん?俺がすることはたった一つで、彼女を追いかけること。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。