彼女のような色っぽい女性になりたい。
そんな彼女が今、その緑の瞳に何を映しているのかとても気になった。
*side os*
高校の思い出は一生もの、か。あなたがそんなこと言うてたけど、俺は早くこんな生活を終わりにしたくて、卒業式までをカウントダウンしていた。卒業したらこの家を出る。そう心に誓っていたから。
ジャージに着替えて、体育館へ向かう。あなたがジャージの半ズボンに学校指定のポロシャツの裾を入れながら言う。
実のところ、あなたの言う通り運動部から誘いは来る。バレー、バスケ、陸上部。その全てを断り、俺が書道部に居続ける理由は先生との約束があるから。
***
この高校に入学して一週間経った頃、担任の先生に呼び出された。放課後、理科実験室へ先生と共に入った。少し幅のある実験テーブルを挟み、俺と先生が向かい合わせに座る。
先生は笑顔を携え、テーブルに身を乗り出しながら話し出した。
無理に作ったような笑顔を貼り付け、次の言葉を繋ぐ。
一拍呼吸を置いて、「前置きはこれくらいにするか」と先生が真面目な顔をする。
先生の言いたいことは分かる。俺はただ俯いていた。
俺が女装をしているのは、父さんがそう言うからだ。
今住んでいる家は、父さんが継いだ家だ。この辺の地主をしていて、歴史は古くかなり昔からこの土地を管理していたらしい。だから、老人は俺の家の前を通る時に必ず頭を下げていくし、季節の野菜を届けてくれる人もいる。
だから野菜、米に困ったことはない。さて、俺が女装をしている理由。それは父さんの考えが関係している。男は両親に盾突く。成長すれば、親より力が強くなり、身体も大きくなる。制御しきれなくなる前に、女として育てればいい。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!