俺が志望しているのが、その大学だった。
彼女の家は裕福なわけでもなく、貧乏なわけでもない。ただ、努力でなんとかできることに関してはあまり協力的ではないようだ。この高校に進学するのにも、彼女は塾など一切通わず、自分自身の力だけで合格した。こう見えて、あなたは努力家でもある。
こっちはもう弁当箱を空にしてしまったが、彼女のトレーにはまだおかずや白米が残っている。時計を見れば、あと数分で昼休みは終了。急いで口に入れるあなたに、「喉に詰まらすで」と言えば、口いっぱいにご飯を詰め込んで「大丈夫!」と満面の笑み。
俺な、あゆのそういうところめっちゃ好きやで。
***
中学生の時。その頃はまだ時間が合えば一緒に下校をしていた。あなたは相変わらず吹奏楽部。
俺も変わらず、書道部に入っていた。彼女の楽器はフルートで、いつもの快活なあなたとのギャップがなんとも言えなかった。書道部の教室の隣でいつも練習をしており、
彼女はフルートのパートリーダーをしていた。
か細い音のフルートが隣の教室から流れてくる。扉を開け、練習しているからか指導の声も聞こえてきた。
音程の高さ低さは分からないが、まだあなたの理想とする音にはなっていないらしい。
完璧に直ったわけではなさそうだが、彼女は先を続けた。せっかちなあなたらしい判断。
部活も終わり、昇降口に行くと下駄箱から靴を取り出すあなたがいた。
注意をしていたのはあなたのはずなのに、その表情はまるで注意を受けた張本人のような顔だ。
彼女は努力家だから。「頑張って」そう伝えようとした時だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。