私には幼馴染と呼べる存在がいた。
やっと身体に馴染んできたのに、もうあと数年でランドセルとはさよならだ。そんなことを考えながら道を歩いていると、聞きなれた声が前方から聞こえてきた。
亜麻色の髪を、男に引っ張られている女の子。
背負っていた赤いランドセルをぶんぶんと振り回し、男の子に向かって走った。
「げ、あなただ!」
小学生であれば、男よりも女の方が成長が早い。私よりも背の低い男子に、上から思いっきりガンをつける。
男子はすぐに逃げて行った。
乱れた綺麗な髪を直してやり、彼女の顔を覗き込む。そんなに背が高いつもりはないが、目の前の彼女は私よりもほんの少し背が小さい。
彼女はそう言ってクスクスと上品に笑った
伏し目がちに彼女は言う。
自分より長い彼女の髪を梳いて、毛先まで整えた。
起きた時のままの私の髪を、手櫛で整えてくれたオスマン。
彼女は私の幼馴染だ。
いつから一緒なのかと聞かれたら、実ははっきりと覚えている。私がここに引っ越してきた時、隣の家に住んでいたのがオスマンだ。
大きな家、というよりは屋敷に近い。二階建ての家で、門は純和式の造り。家の中にもお邪魔したことがあるけれど、門を入ってすぐのところには庭がある。
石で囲まれた池には鯉が何匹かいて、オスマンに聞いたら「私が生まれる前からいるんだよ」とのこと。白と赤の鯉を見ながら玄関へ行くと、私の家の玄関の何倍もの広さがある。まるで旅館だ。
玄関を入るとすぐ、そこには金魚が入った丸い水槽がある。それを右に行くとリビングで、二階へ上がるとオスマンの部屋に着く。
お母さんはいつもニコニコしていてとても優しい雰囲気。お父さんはあまり喋ったことはないが、以前自分の父親と喋っていたところを見たことがある。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!