その手は素早く彼女自身の方に引き寄せられる。俺は拒まれた。
無意識だった。どんだけ切羽詰まっとんねん。
へー、そうなんや。それは初耳。
そう言って彼女は、俺の人差し指をきゅうきゅうと握る。指先から伝わる熱に、心臓がぎゅうぎゅうと締め付けられた。
離れていく熱。それをあえて追いかけようとはしなかった。
ぷくっと頬を膨らませ、ストローを口に入れて飲み物を二口程度飲んだ彼女。
そんなん知らん。はよ解決すればいいのに。聞いてほしいだけ?俺がずっとこの甘ったるいあなたと他の奴の惚気話を聞かんとあかんの?
店内に響くあなたの声。口に人差し指をあてて、「静かにして」と注意をする。
おう、めっちゃええ勘しとるな。せやな、聞かん方がええと思うで。
よーく知っとる人やな。
「そっかそっか」と顔をほくほくさせるあなた。
屈託のない笑顔を見せた。
はたして、そんなことを言える日なんて来るのだろうか。ただの告白じゃない。自分の性別を偽っていたことまでセットで、彼女に伝えなくてはいけないのだ。
***
女子トイレから出て教室に戻ると、あなたが俺のことを呼んでいた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!