第4話

どうして私を…?
22,243
2018/10/22 07:42
そんな、まさか。うそ。これって。なに。なんで?


なんで?


ナンデ?


震えが止まらない。


唇も、指先も、肩も、カタカタと揺れる。




嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘……うそだ。




全然気づかなかった。これまで、普通に生活してた。

入社してからは、ずっと一人暮らし。

アパートから会社への行き来。時々外出して買い物とか飲みとか行った。深夜のコンビニにはノーメイクで……あれ、よくサラリーマン風の人とすれ違ったっけ。こんな時間にって思った。

うそ。

あれまさか……ーー
目が合った。


「お化粧していないきみ、すごく可愛かった」


「……ッ…」


「ね、わかったでしょ? ぼくは、きみのストーカー。そして、ぼくの名前はユウ。よろしくね。杏奈」



ーーうそ。




落ち着いた物言いと表情。




そんな人がストーカー?


ーー信じられない。
コワイ。


脈が乱れる。


息が苦しい。


いや。だれか。


だれかたすけて。



「無視しないでこっち見て」


頭を掴まれた。


目が合ったところで、ようやくユウが笑った。
「杏奈。可愛いね。ずっと遠くから眺めることしかできなかった。けど、やっとこうやって目を合わせられる」


「な、に」


「見てた。きみの通勤姿。オフの日。買い物。ぜんぶぜんぶ、見てた」


「……ッ」


「気づかないのはあたりまえだよ。だって、杏奈に気づかれないように細心の注意を払ってたんだから。ぼく、これでも頭いいんだ。仕事だってしてるし、今日だってちゃんと会社に行ってきた」


信じ難い現実。

ストーカーされていたなんて気づかない。

まさかわたしに限ってそんなことはないと思っていた。
わたしは声を震わせた。


「ッ……こ、こんなこと……やめて……ちゃ、ちゃんと話せば……きっと」


「きっと?」


「きっと分かり合えるはず。だから」


その瞬間、頬に衝撃が走った。


「ぇ」


突然のことに頭が真っ白になった。


頬の痛みに耐えながら、ユウを見た。


ゾッとした。


その顔から笑顔は消えていた。



「……ねぇ。杏奈。きみに決定権なんてないんだよ。だからさぁ……口ごたえは許さない。わかった?」



「…………は、ぃ」




それから、彼は部屋を出ていった。


次やってくる恐怖とのたたかい。身体の震えは止まらなかった。


結局、その日ユウは来なかった。


汗が止まらない。


わたしの身体から、水分が出ていく。



ユウは来ない。




喉が渇いた。

水がほしい。

水……みず……ユウ……。

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