第10話

次はユウの番…?
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2018/10/22 08:19
ユウがわたしの頬を撫でる。


反射的に身体が震えた。


「ッ……」


「杏奈、ぼく疲れてるからさ、癒してよ」


「え、……癒す?」


「うん。ストレス発散させて」
意味がわからなかった。

ストレス発散?

拘束具をつけられているわたしにできることなんてない。

できるとすれば、話し相手になるくらいーー


……話を聞いてほしいってことかな。


「話なら……いくらでも、」


「あぁ、そんなんじゃないから」
ユウが抱え込むようにわたしの脇の下へ手を入れた。

また、くすぐられると思い身体を強張らせる。

けれど、違った。



「杏奈って細いね」


「え、」


「腰のくびれも……」


そして、ユウの手がゆっくりと動く。

脇から肋骨、そして腰へかけて何度もなぞる動きに熱気が高まる。


「ン……ッ」
直接触れるわけでもない。

服の上からただ脇から胸の下をなぞられているだけなのに、ドキドキする。

その指先の動きがいやらしいせいだろうか。

ユウは胸に触れるわけでもなく、ただ同じ動きを繰り返した。

それでも、わたしの心臓は強く打ち付ける。

たまらず声をかけた。


「ユ、ゥ……ッ」


「なに?」


「……ッ、その……触りかた……なんだか」
「なんだか?」


「ッ……ン、…くすぐったい……ッ」


すると、ユウが言い知れぬ笑みを浮かべた。


「くすぐったい……ね。知ってる? くすぐったいのと気持ちいいのって、紙一重なんだって」


「それ……どういう、こと?」


ユウはなにも言わなかった。

その代わりに、先ほどまで脇の下から肋骨にかけてなぞっていた指が離れていく。

わたしはユウの指に釘付けになった。

次はどこを触れられるのか気になって仕方がなかった。
けれど……ユウはなにもしようとしない。




「クスクス、杏奈。期待してる?」


「え、」


「だって、そんな顔してるから」


「ッ……そんな、こと」


慌てて視線を逸らす。顔が熱い。

そんな顔をしてる?


ぜったいに違う。
監禁した相手に期待することなんてない。

そんなことありえない。



けれど、身体中からにじむ汗は疑いなく動揺からくるものだった。

気づけばわたしの身体はぐっしょりと汗で濡れていた。



たしかに何度もなぞられて、過敏になってるかもしれない。

けれど、触ってほしいなんて決してーー
「触ってほしい?」


「そんな、わけない……ッ」


「ほんとうかなぁ」


「ッ……もちろん」



ユウの指先。

細く骨ばった手。



触れてほしい……なんて、そんなこと……、


思ったとしても……言えない。
「ねぇ、杏奈」


「な、なに?」


「ぼくはきみが望めばなんでもするよ」


「……っ」


「してほしいことある?」




わたしを見つめる甘い視線。

その視線に溺れてしまいそう。
素直になればよかった?

触れてほしいって言えばよかった?



けれど、だめだった。


そんな恥ずかしいことはできなかった。



「そ、んなこと……なぃっ」



「…………そう。わかった」



ゆっくりと立ち上がるユウ。


平然とした顔で、ネクタイを締め直す。
「素直になればいいのに……まぁ、ぼくはそれなりに楽しめたけど」


「っ、そ、んなこと、なぃ」


「気持ち良さそうにしてたじゃない。ストーカーに感じるなんて、きみも結構いやらしいね」


「ッ……ちが、ぅ…ユゥ…ひどいよ」


「ひどいのはお互い様だよ。ぼくはずっときみを遠くから見てた。ずっと嫉妬してた。だから今度はぼくの番」


「そんな……ユ、ゥ……っ」
「杏奈。ぼくはきみに嫉妬してもらいたい。もっともっと。だから、ね?」


「嫉妬……だなんて……わたし」


「あ、携帯が鳴ってる。そう言えば、大手取引先の女の人から会いたいってメール入ってたんだった。大事な取引の真っ最中だから、無視できないんだよね。じゃ、杏奈。また後でね」


そう言ってユウが背を向ける。


「ユウ……っまって」


引き止めるも、ユウは行ってしまった。

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