第9話

好き?…そんなわけない。はず…
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2018/10/22 08:13
わたしを見つめるユウの視線は、愛に満ちていた。

たとえそれが、間違った愛し方だとしても、わたしを愛しているのには違いない。

半年前、恋人から振られて以来、わたしは恋愛を避けてきた。

前の恋人は、浮気症だった。

どんなに泣いても、恋人は浮気をやめなかった。

浮気する男なんて大嫌い。

わたしだけを愛してくれる人がいい。

そんなことを思っていた。
すこしばかり狂気的でも、わたしだけを見て、わたしに尽くしてくれる。

そんな人がいい。



あれ、それって……ユウのこと?


ーー違う。そんなわけない。



ストーカーに恋するなんて……いくら格好良くても、そんなこと……ない、よね。



ーー……
艶のある自然な茶色い髪。

切れ長の二重まぶた。

整った顔立ち。

そして、わたしを見つめるその視線。



漆黒の透きとおった目。

その瞳が、わたしを捕らえて離さない。


「杏奈。好きだよ、だからぼくを見て」


そう言って優しく微笑む。
固定具でつなぎとめるのはなぜ?

不安だから?

わたしを逃がすのがそんなにいや?

そんなに……わたしを愛している?



へんだな。



ストーカーから監禁されてるのに、わたし……どこか安堵してる。



だれかに愛されていたと知ってやすらぎを感じてる。
その相手がユウだからかな。


タイプの人だったからかなーー


わたし……おかしくなっちゃったのかも。


でも、……それでもいいかな。




ーー……
「杏奈。……杏奈」


声がする。


「杏奈」


「……ぅ……ん」


ぼうっとする意識。


……そうだった。わたし……寝ちゃったんだ……。


「杏奈ってば、起きて」



その中で聞こえるユウの柔らかい声。

ずいぶん長いあいだ、眠っていた気がする。
家と同じベッドだったため、熟睡してしまったようだ。


「ぅ……ん……」


わたしはゆっくりとまぶたを持ち上げた。


「え……、」


見えた景色にわたしは目を見張った。


ユウがわたしに馬乗りになっていた。
わたしをまたぐようにして、見下ろすユウ。


距離が近くて、心臓が跳ねた。


「ユ、ユウ?」


「ただいま。さっき仕事から帰ってきた」


「お、おかえり……なさい」


拘束されたまま答えた。


ユウがわたしを見つめる。
寝起きのわたしを愛おしそうに見る。


……恥ずかしい……。


わたしは直視しないようにした。


「杏奈。よく眠ってたね」


「ぅ、うん」


「寝顔可愛いかった」


ユウが笑いかける。


トクンーー


胸が波打つ。
そんな顔されたら……ドキっとする。



「それにしても、もう夕方だよ?」


「ぇ……夕方?」



時計を見ると、午後六時だった。


熟睡してたなぁ……。


そんなことを考えていると、ユウが嘆息した。


「今日は疲れたよ。トラブルとかもあったし、社内でもいろいろね。あぁ、それと、また営業先の受付の女の人からしつこく言い寄られて……はぁ、勘弁してってかんじ」
ユウがネクタイを緩める。

その仕草に感情がこみ上げる。


「そ、それは……大変……だったね」


「うん。連絡先を教えろってうるさくて。お得意先の紹介だからむげにできなくて、仕方なく……」


すると、携帯が鳴った。

液晶画面を見てユウが眉をひそめる。


「はぁ、今日何回目だろう。しつこいなぁ。ぁ、会社の子からもかかってきてる……最悪。この子もいっつも食事に誘ってくるし……ほんとしつこいよね。女の人ってさ」
スーツ姿のユウがため息をはく。

仕事のことを話したのは初めてだった。



話の内容からしてユウは、かなりモテるようだ。



たしかに、ユウは格好良いし、スタイルも抜群。

ストーカーということ以外で考えたら、完璧な人間。



そんな人がなぜわたしを好きになったのか理解できない。

ユウなら何もしなくても、女の人は寄ってくるはずだ。
ーーわたしなんて、どこにでもいる平凡な女なのに……。



そんなことを考えてるいると、ユウがわたしを見た。


馬乗りになるユウが、わたしを見下ろす。


顔に影がかかり、どこかミステリアスだった。


ユウはどんな表情も色っぽく見える。


モテるわけだ。ユウはほんとうにきれいな顔をしている。
そんな人に愛されているわたしってーー

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