第8話

どうして、そこまで…?
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2018/10/22 08:07
「抵抗しないでよ? いい?」


無言でうなずく。


ユウは拘束具を順番に緩めていった。

わたしは、大人しく待った。

すべての拘束具から解放される。


「そこにあるドアがトイレだよ」


「……ぅん」


ゆっくりと立ち上がった。

丸一日横になっていたせいで、足が震える。

それでも、なんとか足を踏み出すと、部屋の隅にあるトイレまで走った。

勢いよくドアを開ける。
ーーバタン。



これ以上我慢できない。


わたしはスカートの中に手を入れ、下着を下ろした。


そのまま便座へ座った。


ペタンーー


ーーッッ……



その瞬間、ずっと我慢していたものが溢れ出す。
しばらく勢いは止まらない。

とめどなく出た。

こんなに出るものなのかと言うくらい出た。

切れ間なく、しばらくそうやって、わたしはようやく膀胱を空にすることができた。

そこでわたしは、限りなく深い息をはいた。



「……、は、はぁ……まにあったぁ……」



全身の力が抜けていく。


とてつもない脱力感。
こんなにトイレを我慢したのは初めてだった。

我慢からの離脱。

それは、快感以外のなんでもない。

信じられないほど気持ちよかった。

自分に置かれた今の状況を忘れるほどだった。



レバーを引いた。


ジャボジャボと勢いよく流れていく。


起きていることすべて、夢だったらいいのにと思った。


けれど、これは現実。
鍵の付いていないトイレを出ると、ユウがベッドに腰掛けていた。

満足そうな顔でわたしに笑いかける。


「すっきりした?」


そう訊かれたので純粋に、


「はい」


と答えた。


「よかった」


ユウがわたしを見つめる。

その瞳はどこか魅惑的だった。
それも、ユウの計画のうちなのかもしれない。


「はぁ」


重たげな吐息を漏らす。


「ねぇ、そんなところで立ってないでこっち来なよ」


ユウが声をかけた。

不安に包まれながら寄っていった。



「さてと。遊びも終わったし、そろそろぼくは仕事に行こうと思う。杏奈はどうしたい? またベッドに繋がれたい? この汗で濡れたベッドに」
わたしは顔をブンブンと横に振った。


「あはは、可愛い反応。そうだよね。わかった。じゃあ、違う部屋に連れていってあげる。その代わりこれまで以上にぼくを好きになってよ。いい?」


「……ぅん」


「わかった。じゃあ、手を出して」


恐る恐る差し出すと、ユウがポケットから手錠をとりだした。

シルバーの頑丈な手錠がかけられていく。
「目隠しもするよ」


ユウがわたしに布をかぶせた。わたしの視界はゼロになった。


「よし、じゃあ、こっち。ゆっくりね」


そして、わたしの身体を引き寄せると部屋を出た。

すぐに階段を十段ほどのぼった。

それから、誘導されるまま進んでいく。

しばらくして、ドアの開く音がした。

小さな段差を乗り越えて、入っていく。


「驚くよ、きっと」




そこでようやく目隠しを外された。


視界に入ったものをみて驚愕した。



ピンクの壁紙。

花柄のカーテン。

丸テーブル。

黄色いソファー。



「そんな……」


わたしは目を見開いた。
調和のとれた可愛い部屋。

見覚えのある家具と壁紙。



ーーわたしの部屋とそっくり。



「信じられない……」



「驚いた? 杏奈の部屋をこっそり覗いてさ、同じ空間を作ったんだ。結構大変だったんだよ。ネットとか家具屋を回って、揃えるのにずいぶん苦労した」



ユウが嬉しそうにわたしを見つめる。

そして、やさしく語りかける。
「杏奈……さっきは……ごめん。ちょっとイタズラが過ぎた。水のことも……杏奈を自分のものにしたくてつい……」


「ユウ……」


トクン。


心臓が跳ねる。


ユウの悲しげな瞳が純粋だった。


そして、虚ろな視線がセクシーだった。


わたしは、自分が監禁させてることも忘れ見惚れた。
ーーなんてきれいな顔なんだろう。


と、ユウがわたしを見た。そして微笑みかける。


「だから、この部屋はそのお詫び。喜んでくれるよね?」



こんなにも忠実にわたしの部屋を再現している。


ここまで揃えるのは大変だったに違いない。


……そんなにも、わたしのことを?


わたしは頷いてしまった。
「うん……」


「……杏奈。きみが好きだ。ずっと前から。だから、離したくないんだ。わかってくれるよね?」


「……ぅ、ん」


「ありがとう」



それから、ユウはまたわたしをベッドに繋ぐと、部屋を出ていった。

一人残されたわたし。

壁紙、テーブル、そして、わたしを繋ぐこのベッド。

どれも見慣れたものばかり。
それが安心したのか、次第に眠気が襲ってくる。



……疲れたな。



久しぶりの睡魔に誘われてわたしは目を閉じた。



ーー……

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