ユウが好き。
大好き。
だから、わたしは逃げない。
どこにもいかない。
わたしはあなただけのもの。
ずっと監禁されていたい
なんて思うわたしって
おかしい、かな
でも、
足りないの
そうでもしてくれないと
足りないの
ユウに監禁されて、一ヶ月が経った。
と言っても、実際は監禁されていない。
仕事にも行くし、ときどき自分の家へも帰る。
ユウと初めてセックスしたあの日、彼はわたしを自由の身にしてくれた。
「家に帰っていいよ」
彼はそう言った。
携帯も財布もすべて返してくれた。
正直、帰りたくなかった。
監禁されたままでよかった。
わたしをこころから愛してくれる人。
ユウがいれば、なにもかも失ってよかった。
すべてを捨てる覚悟があった。
「家に帰らなくていい。仕事もやめる」
けれど、彼はそれを許さなかった。
「そんなのだめだよ」
ユウは顔を横へ振った。
「なんで?」
「ぼくは、今の杏奈が好きなんだ。杏奈の魅力を奪いたくない。だから仕事はこれまでどおりつづけてほしい。監禁してたぼくが言うのもなんだけど」
ほんとうにその通りだ。
監禁した本人のセリフとはおもえない。
けれど、ユウがそれを望むなら仕方ない。
しぶしぶ了承した。
そして、久しぶりに自分のアパートへ戻った。
家に帰るとまず、職場に連絡した。
何度も頭を下げて謝った。
同僚からも何があったのかと訊かれたけど、笑ってごまかした。
「急に旅行へ行きたくなっちゃって。心配かけてごめんね」
ユウのことは一言も言わなかった。
翌日から仕事へ行った。
わたしは何事もなかったように働いた。
けれど、それは形上。
仕事が終わると、自宅へは向かわない。
ユウの家へ行く。
インターホンを鳴らす。
ドアが開いた。
愛しい人がわたしを待ちわびたように出迎えてくれる。
「おかえり、杏奈」
「ただいま」
わたしはユウに向かって微笑んだ。
ーー
家へ入るとユウはわたしに手錠をはめる。
そうすることで、安心するのだと彼は言った。
わたしはそれを受け入れる。
「今日も、ちゃんとぼくのもとへ帰ってきてくれたね」
「うん」
「可愛い杏奈」
わたしをやさしく抱きとめるユウの声。
色っぽくて、ドキドキする。
「ねぇ、今日の仕事はどうだった?」
ユウは今日の出来事を訊いてくる。
それに対してわたしは、ひとつひとつ事細かに説明する。
どんな小さなことでも報告する。
「そうなんだ。ありがとう」
報告したあと、彼はご褒美をくれる。
繰り広げられる甘い愛の交歓。
「ぁ、……ッ」
「ここ、触られるの杏奈好きだよね」
「んっ、……」
「気持ちよさそう。可愛い」
ユウの甘い声にわたしの身体は熱くなって、止まらなくなる。
なにもかも、ユウのものになった気がして満たされる。
監禁。
その言葉は今は違う気がする。
けれど、ユウはたびたびその言葉を使う。
「監禁してごめんね」
「いいよ」
「杏奈がいやだったらやめるよ」
「いいってば」
申し訳なさそうなユウにわたしは、必死にすがりつく。
ユウはいつもどこか不安そうだった。
ときおり強くわたしを求めることがある。
わたしはそれを必死で受け止める。
狂おしいほどの愛。
けれど、どんなに受け止めても、
彼の目から「不安」の色が消えることはない。
なぜ、そんな目をするの?
わたしはそばにいるのに。
安堵していいのに。
離れるつもりなんてないのに。
だから、監禁されてるつもりはない。
毎日ここに帰ってくるのもユウに繋がれるのも、わたしがそれを望んでいるからだ。
束縛されたい。
ユウに縛られたい。
わたしは、ユウを愛してしまった。
たとえ、それがストーカーだった人であっても関係ない。
わたしを愛してくれる。
大切にしてくれる。
それで、じゅうぶんだった。
愛している
なのに
なんで
足りないの?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。