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第1話

あの日。
62
2018/04/17 10:27
穴の中は深い暗闇。何も見えない。残酷な予言を突きつけた医師に、言葉を失った。呆然とした私は、我に返ったあと訊ねた。
あと、どれくらいですか?
どんどん時が削られていく。
「あと……です」
涙が出た。その後膝が震えて呼吸が荒くなった。私は受け止めるだけで精一杯だった。医師に告げられた言葉に突き落とされ、家族が待つ病室に戻る。ごめんなさいと、泣いた。
ずっと側にいたのに、安寧を貪り、気づかなかった私を責めなかった彼女におどけて笑った。大した病気ではないと、治ると信じきっている彼女に、胸が痛んで仕方がなかった。私が泣いたら駄目なんだ。側にいたのに、何もできなかった私を一言も責めず逆に気遣う強い彼女を見ているのが辛くて、切なくて、ふらふらと病室を出た。雨の寒い夜道を力なく歩いた。もうあと少ししか時間がない。焦る。このまま、車の前に飛び出してしまおうか。そんな考えさえ過ぎった。

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