入院したらすぐ検査があった。レントゲンは前の病院から送られてきたのか。すべてをわかったように若き主治医は言った。最初の担当医が告げたそっくりそのまま同じ言葉を。何度も聞きたくなかった。これから、約1ヶ月、ぬるくて酷な嘘をつき続け母を騙す。家族の間で暗黙の了解をした。私は足がないので泊まることはできなかったけれど毎日病院に通った。ふらついて転倒する恐れがあったため、1人でトイレをしようとしたら駄目だと言われていたのに動いたので、踏んだらブザーが鳴るマットを置かれた部屋に入れられた。それからしばらくして、支えがあってもトイレに立つこともできなくなり寝たきりになった。屈辱だったと思う。それでも仕方がなかった。母の小さなわがままは、アイスが食べたい。それを聞いて、近くのスーパーまで買いに走った。熱が出て辛かったから欲したのは分かっていた。やがて、その要求もなくなった。私は家で過ごすのは寝る時間だけになっていたけれど、毎日、愛猫はささやかな慰めをくれた。泣くばかりの私のそばで眠り一緒に起きて、家にいる時だけは、普通の日常を過ごしている気がした。一定の湿度に保たれた病室、これってなんの意味があるのと言いたかった。最長入院期間が定められた病院……そんなに、長く母はそこにいるはずもなかった。入院のしおりに書かれた言葉に何の意味があるの?
母だけじゃなく、そんなに長く入院していないじゃない!
痛いと叫ぶ声が方々から聞こえる中、母は大人しかった。静かに過ごしていた。怖かった。もう時が過ぎないでと祈ったけれど、刻々とその時は迫っていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。