第16話

妖Tubeはじめました
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2021/07/26 00:45













猫又「座敷童子ぃ、なんニャンそれ?」



座敷童子「これかい?これは今巷で話題の……妖Tubeさ!」
猫又「ようちゅーぶ?」






ある寒い冬の日。


母ちゃんが大判焼き屋に働きに行って、俺は新聞配達が終わって家にいる。
猫又はいつも家にいるが、今日は座敷童子まで家にいる。

俺はこの珍しい状況を楽しんでいた。






座敷童子「そうさ!未来の妖魔界で人気らしくてね…やっぱ僕って先取りしちゃうんだよねぇ」
猫又「どんな動画があるニャン?見せてニャン!」
「俺も見たい!」




そう言うと、座敷童子は「君達にだけ特別ね」とハートが語尾につきそうな感じで言ってきた。
俺はその言葉に甘えて、猫又とぎゅうぎゅう詰めで画面を見ていた。


白黒ではなく鮮やかな色で彩られている画面内の妖怪はとても楽しそうだった。





「すっげ〜!!」
猫又「ガッツ仮面とかもありそうニャンね!」
「たしかに!あ〜ガッツ仮面をカラーで見てみたいな〜!」





俺の近くの電化製品屋さんは、白黒テレビしか売っていない。
漫画も白黒だし、そもそも買えるほど裕福でもない。

漫画の表紙のかっこいいガッツ仮面を見ては憧れを抱いていた。




俺は猫又と顔を見合わせて笑ってから次の動画を見ようとした。






座敷童子「面白い?」
「うん!すっごく面白いよ!」





猫又「…そうニャン!おれっち達も撮るニャン!」





「おれっち天才〜♪」と踊りながら言う猫又を見て俺は「いや俺は…」と断ろうとした。
すると隣にいた座敷童子は意外にもノリ気で、「いいね!」と言っていた。


なんとなく俺は強制なんだろうなあ…と感じて、「俺もやるよ…」と諦め混じりにいった。



猫又は嬉しそうに目を細めて笑ってから、早速座敷童子の端末をセットして撮影を始めた。







「これ、撮影もできるんだね…便利」
座敷童子「まあ未来の技術だしね!うんがい三面鏡に頼んで行った甲斐があるよ」





俺は未来の進歩に驚きながらも、猫又が指揮を取ってくれるので、それに合わせた。
まず手始めに自己紹介をしていくらしい。

うう…恥ずかしすぎる…






猫又「猫又!またまたまたまた登場ニャン!!」
座敷童子「僕は座敷童子…60年前からお送りしているのさ」





色々ツッコミたいし、座敷童子に至ってはくるくる回ってからバラを持って端末の前に。
絶対あれ座敷童子の顔しか見えてないよね…絶対近過ぎるよね……

てか猫又今回初めてでしょ……



俺は気が重くなりながらも、一応「シンです!」と普通に言ってみた。






猫又「シン普通すぎニャン、ちゃんとやるニャン!」

「え、えぇ…なんで言えば良いのさ」
猫又「一心食品のシンですニャン!!」
「それアウトスポンサーだから!!」





ああ…お先真っ暗なコンビだな…


俺は少し頭を抱えつつ、前で楽しそうに撮影している二人を眺める。
……まあ、楽しむやつだもんな!





「ていうかチャンネル名どうするの?」


座敷童子「やっぱり……座敷童子チャンネル?」
猫又「違うニャン、猫又ちゃんねるに決まってるニャン!!」




うわあこれ一生決まらないやつじゃん…

そう思いながら、俺は顔を引き攣りながら、「まあまあ」と宥めた。
二人はやがて落ち着きを取り戻し、「じゃあどうしよ」と悩み始めた。






座敷童子「高麗ニンジンチャンネル?」
猫又「お前の脳みそ味噌汁かニャン…シンはなにかないかニャン?」



「え、えぇ俺…俺は……うぅん……」





そう悩んでいると、猫又が「ああー!」と大声を上げてから、「良いこと思いついたニャン!」と笑って俺の方へ飛び込んでくる。

そんな様子に少し期待して、「なになに?」と訊くと、にやりと笑った。





猫又「おはぎチャンネル!おはぎに信頼置きまくってる奴の為につけてあげるニャン」

「ぶはwそれってイツキのこと?wあははははwwwwで、でもさ、ちょっとださくない…?w」




座敷童子「いいね、それ!おはぎチャンネル決定だ!!」





いいんかーい。


そんなツッコミも虚しく石油ストーブの暖かくて少し臭い空気に吸い込まれていった。
でも俺も猫又の意見が地味に好きだったので、俺も賛成した。





猫又「いやーあの時はほんとおはぎに助けられたニャン……」
「山姥の時?その時猫又いなかったよね?」
猫又「スーさんに聞いたニャン!!イツキのアホさにあっぱれニャン」





あはははと俺も座敷童子も笑ってから、座敷童子が思い出したように「あ!」と声を出した。
それから端末にまた近付くと、言葉を続けた。





座敷童子「僕の美貌に惚れた子…よかったら60年前においで」
猫又「そんな物好き中々いないニャン」




そう言うと座敷童子が猫又に飛びかかり、猫又もそれに対抗する。
うわ、まってあんまり力みすぎると……





ぷぅぅぅぅ…………






座敷童子「」


「あ"ッ、待って死ぬ!!くっさ……!!!ちょ、これはもう終わろ…くっっさ…!じゃ、じゃあね!」







プツッ












______
___











エンマ「あ〜、仕事もうやだ〜」






その動画を撮られて60年後。



まだ空亡が暴れておらず、ウバウネ等が暴れていた時代。
妖魔界の頂点に君臨するエンマ大王は仕事疲れを感じていた。(いつも)






エンマ「……」






ヨップル社で買った携帯を開いて、最近妖魔界で話題の妖Tubeを開くと、“人気”という枠に、猫又と座敷童子が映っていた。

久しぶりのメンツに、懐かしさを感じつつ開いてみる。




すると、画面内に出てきたのは猫又と座敷童子、そして親友だった。




猫又≪猫又!またまたまたまた登場ニャン!!≫




その声を筆頭に、座敷童子、そしてシンが挨拶をする。
シンの挨拶が普通すぎると言う指摘と変な挨拶のアイディアに思わず笑ってしまう。

懐かしすぎるこの感じ。




あの頃に戻りたいと思ってしまう。





そして、話題はチャンネル名へ。






猫又≪お前の脳みそ味噌汁かニャン…シンはなにかないかニャン?≫
シン≪え、えぇ俺…俺は……うぅん……≫






まあシンのことだ。

どうせ『大判焼きチャンネル』とかそんなしょうもないのを出すに決まっている。




俺はアイツの深層心理を読みながら見ていると、その予想は儚く散った。
シンがアイディアを出すのではなく、猫又が出してきたのだ。






「あー!」というなんともわざとらしい閃き方と、シンの軽い食いつき具合。
なんとも変な状況だった。





猫又≪おはぎチャンネル!おはぎに信頼置きまくってる奴の為につけてあげるニャン≫




おはぎに信頼置きまくってる奴…?
誰だそれ…臼田か?

シンもタエもそこまでおはぎに信頼置いてたか?


いや……もしかして……





俺がいなくなってからできた、共通の友達か?






そう思うと少し寂しくなって、動画を閉じようとしてしまう。





シン≪ぶはwそれってイツキのこと?wあははははwwwwで、でもさ、ちょっとださくない…?w≫


エンマ「は?」





は……俺?
俺そこまで信頼置いてたか?


いや確かに臼田の作るおはぎは世界一といっても過言ではないほどに美味しい。

それは間違いない。



俺は頭の中をぐるぐる回転させながら、この動画の進行を見守った。







猫又≪いやーあの時はほんとおはぎに助けられたニャン……≫
シン≪山姥の時?その時猫又いなかったよね?≫
猫又≪スーさんに聞いたニャン!!イツキのアホさにあっぱれニャン≫




エンマ「アイツ……」






言いたい放題言いやがって…と思いながらも、最近そうやってバカにされることもないから少し新鮮だった。

それに、俺の知らない共通の友達とかじゃなくて、俺のことを想ってくれていると思うと、すごく嬉しくなった。





この動画を見守っていくと、段々と雲行きが怪しくなり、オチは最悪なものだった。





動画が終わって、コメントを書ける場所に行くと、上に視聴回数が示されていた。
視聴回数は3億回で、ちゃんとチャンネル名は『おはぎチャンネル』になっている。

登録者数は1億人を超えていた。

ほかに動画出してんのかなと思い開くが、この動画以外出していなかった。








エンマ「…よし、仕事頑張るか!!」







俺は背伸びしてから机に置いてある書類に向き合った。



















〜おまけ〜







ぬらり「…?最近エンマ様はきちんと仕事をされている…何かあったのか?」
猫きよ「最近エンマ様は寝る際や疲れた時に同じ動画を見ているようですよ」
犬まろ「いつも見ながら笑っています」




ぬらり「……?そうか」









そして、ある日。







エンマ「うおおおおおおお!!!!!」





そんな元気な声が聞こえて、なんだなんだとぬらりひょんと犬猫コンビが向かった。
そしてドアを開けると、嬉しそうに顔を緩めているエンマ大王が椅子に座っていた。


その状況にぬらりひょんは首をかしげる。






ぬらり「ど、どうされました?」


エンマ「ん?あ、いやなんでもねぇよ!新しい動画が出ただけだ!よーし仕事頑張れるぜ!!」










ぬらり「……(感動)」






















それからエンマ大王はサボることが少なくなったとさ。めでたしめでたし。

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