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ああ、神様よ。
彼を、どうか彼をお救い下さい。
ある影がおおもり山にある神社でそう必死に願っていた。
賽銭箱には5円玉が大量に入っていた。
風に揺られて木が揺れる。
雨が降っても、雪が降っても、風が吹いても。
その影の持ち主はそこでずっとお祈りを捧げていた。
赤い糸で知らず知らずのうちに縛られ、黒い影が周りを包み込んでいる純粋な少年。
彼を見て神様に祈りを捧げるしかないと確信したのだ。
彼はこのままだと、来世が大変なこととなってしまう。
そう。
彼は【妖怪】に魅入られてしまった。
神よ。神は彼を生贄として妖怪を落ち着かせようとでもしたのでしょうか。
彼はそんなに前世でいけないことをしてしまったのでしょうか。
来世だけは、幸せにしてくださるのでしょうか。
それとも。
それとも彼にとっての幸せが妖怪に魅入られることだとでも言いたいのでしょうか。
今日も5円玉が賽銭箱に投げられる。
雨に濡れて錆びてきた5円玉がぱりんという音と共に割れる音がした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!