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ナツメ「それじゃあジバニャンとコマさん。お留守番よろしくね、お父さんもいるし」
そう言ってナツメは家を出た。
ナツメの母親は買い物、弟は友達と遊びに行った。
外は暑い。その理由で俺様ともう一匹は天野家で少しぐうたらすることとした。
リビングへ行くと、ソファーに座ってテレビを見ているナツメの父親の姿があった。
コマさん「……なんだか、懐かしい気もするのお」
それは俺様も感じていたことだ。どこか、見覚えがある、あのツンツン頭。
真っ直ぐで曇りのない眼差し。普通な性格故の、親近感。
全てが久しい感じがして、とても暖かい気持ちになってしまう。
心臓をゆっくりと握られているような、くすぐられているような。
この気持ちが嫌いで、ナツメの父親は好きじゃない。
こんな気持ちにさせるのは、ナツメの父親だけなんだ。
「……隣失礼するぞ、ナツメの父親」
聞こえもしないが、一応確認は取っておこう。
確認を一方的に確認して、父親の隣にライトの姿で座る。
テレビは漫才を映し出していて、その漫才で所々で笑っていた。
なんだかこの感じも、少し懐かしいような……そんな、気がする。
俺がナツメの父親に寄りかかってくつろいでいると、何を思ったのか父親は立ち上がった。
俺はバランスを崩し、ふかふかのソファーに頭をぶつけてしまった。
ぼふり、という音が耳の近くで聞こえた。
なんだよ…と思いながらテレビを見ていると、父親はキッチンからお菓子を持ってきた。
両手にチョコボーを持っていた。俺はそのチョコボーを奪おうと心に決めた。
そしてナツメの父親がソファーに座り、チョコボーを机に置く…と思ったのだったが。
父親「食べる?チョコボー」
そう言ってソファーにチョコボーを一本置いた。
……まさかナツメが妖怪が見えるということは、父親も見えるものなのか?
なんて思ったが、一度も俺達が見えていたような素振りは一切なかったし、その説は薄くなる。
だが、どう考えても、これは俺達が見えている証拠のような気がする。
父親「…なーんてな。なんだろうな、いっつもくつろいでるとチョコボー2本持って来ちゃうんだよな」
「昔からなんだよな」なんて言いながら、一つチョコボーのからを破り、父親はかぶりついた。
隣に置いてあるチョコボーを俺は取って、俺もからを破ってかぶりついた。
その光景に父親は驚くだろう。
……と思ったのだが。
父親「…スー…スー……」
コマさん「…寝ているな」
食べかけのチョコボー片手に、寝てしまっていたのだ。
……なんという情けない姿。テレビをつけっぱなしで、少し溶けたチョコボー片手に寝る父親。
父親の威厳はどこへ行ったのか。そう問いたくなるような姿だった。
コマさんは父親の食べかけのチョコボーを取り、パクりと食べた。
俺もチョコボーを食い尽くし、また父親に寄りかかる。
「……(やっぱり)」
お前の隣は落ち着く。
コマさん「……とっても、落ち着くな。」
「……ああ、そうだな。」
おやすみ、ケータ。
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♡ありがとうございます
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!