第13話

大好きだった
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2021/07/24 08:46
⚠︎イツシン,エンシン要素が含まれます。苦手な方はブラウザバック推奨いたします。
⚠︎カイシン(カイラ×シン)要素も多々あります。
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目が覚めると、夕立が降っていた。
なんで俺は眠っていたのかは分からないが、冷たい雨のおかげで脳は活性化された。
急いで木の下へ潜り、夕立が止むのを待っていた。

ここは俺の知っている世界じゃない。

ケータ達が住む世界だ。
今日は新聞配達もなく暇だったので、探検しようと思ってひとりで遊びに来ていた。



だが俺は生まれつきの方向音痴のせいで、ある森に迷い込んでいた。





「確かここ…ケータが妖怪ガチャがあるって言ってたな…」




妖気がとても秘められている森みたいで、ここには神社もあるらしい。
それに昔、ここの森の廃屋には大きな狸の妖怪がいたとも言っていた。
俺は濡れた半袖のTシャツを搾って、まだ降る夕立を眺めていた。

雷とか降ってきたらどうしようか。

確か、木の下にいると雷が降って来る可能性があるからダメだと聞いたことがある。




「………寒いなあ…」



体育座りのまま包まり、自分の体温でどうにか暖まろうとするが、服が冷たくて意味がない。
それでも寒くて、顔をうずめると、髪の毛から水滴が落ちて行くのを感じた。

木の葉っぱの間から雨が落ちてきて、当たってしまう。

寒いなあ…




目を瞑って思い浮かんだのは、ある親友の顔。
その親友はもう俺とは違う世界に住んでいて、俺なんかよりすごいヤツだ。

俺はずっと、その親友に囚われている。


大好きで、ずっと大好きで。
それ故に、彼から離れることは不可能に近い。



そろそろイツキ離れをしなければいけないと感じるが、それも虚しく。





「(……イツキ…)」



すると、雨の音とは別に草を踏む音が聞こえた。
誰かが歩いてるとは分かっているけど、別にいいやと思いながら無視していた。

その足音は俺に近づいて来たかと思うと、俺の前で止まった。

そっと上を見上げると、見知った顔の人がいた。





カイラ「お前は…確か、エンマの“シンユウ”ではないか」


「……えぇ!?あっ、か、カイラさん!?なんでここに……」



予想外の人物すぎて、俺は素っ頓狂な声を出してしまった。



その様子が面白かったのかひと笑いしてから、カイラさんは話を始めた。




カイラ「たまたま通りかかっただけだ。最近仕事が忙しくてな。遊びに来たんだ」



「雨が降って来たのは予想外だったが」と笑うカイラさん。
確かカイラさんは水が平気だったから、別にどうってことないんだろうな。

カイラさんの目に写る俺は情けなくて。

カイラさんの髪からぽとりぽとりと落ちる水滴が少しくすぐったかった。



それに気付いたカイラさんは、「すまない」と焦って言ってから、頭を振り回していた。
それから「隣邪魔するぞ」と確認をとって、俺の隣に座った。





カイラ「お主なら、エンマを呼べばこの状況を打開できるのではないのか?」
「え?あ、あはは……最近イツキに頼りすぎちゃって…ちょっと抑えないと…」





そう言うと、カイラさんは「……そうか」と少し間を置いて言った。
その間が気になったけど、あまり訊くことでもないし、特に気にしなかった。

すると、カイラさんが言葉を続けた。



カイラ「エンマ離れか。エンマも悲しくなるな」
「そ、そんな…!…イツキは俺のこと面倒な奴だって思ってますよ…」




自覚済みもいいところなんだけどね。
ずっと俺邪魔じゃないかなとか思ってたけど、やっぱり好きだから…

離れられない俺はちょっとほんとやばいかもなあ…




カイラ「…まあ、お主の“好き”とアイツの“好き”は似て非なるものだからな…」



ちょっと呆れ気味にため息を吐くカイラさん。
俺はその様子にはてなを浮かべて、「どういうことですか?」と訊いた。
カイラさんは「時期にわかるさ」と笑って返した。

俺は分からず、はてなマークを浮かべたまま、また夕立を見つめた。





「……雨、止みませんね」
カイラ「寒いのか?」



「…………そう、なのかもしれません…なんだか少し、悲しくなっちゃって」




そう笑って答えると、カイラさんは俺の顔を真っ直ぐに見つめた。
なんとなくその瞳から逸らしては行けない気がして、俺も見つめていた。

すると、雷の音が遠くから聞こえてきた。




カイラ「雷か……木の下にいたら危ないな」
「そうですね、でも……どこ行けばいいんでしょう」




カイラ「…それじゃあ、未来の妖魔界に来ればいい」




手を差し伸べてくれたカイラさんの手を取る。
カイラさんの手は冷たくて、濡れていた。

手を取った瞬間、周りは光に包まれた。
眩い光に思わず目を閉じてしまった。




光がなくなって、ゆっくり目を開けると、そこは閻魔離宮だった。








フウくん「カイラさま!とシン殿!久しぶりだな!どうして濡れておる!」
ライちゃん「久しぶりだ!シン殿、これ、タオルだぞ!拭くがよい!カイラさまも!」




「ありがとう、フウくん、ライちゃん!」





その様子を見たカイラさんが、髪をタオルでぬぐいながら、俺達の方へ歩みを進めた。




カイラ「随分と仲が良いのだな」
「はい!ふたりはよくバトルに手伝ってくれるんです!たまに大判焼き食べに行ったりとか…」


ライちゃん「シン殿の手作りごはんはとても美味なんですよー!!」




わいわいと盛り上がった三人を見て、俺は急いで髪をぐっしゃぐしゃにタオルで拭く。
元々癖っ毛なので、そこまで綺麗に髪をセットしようとは思わない。

そんなことをしていると、カイラさんが「急ぎすぎだ」と俺の頭に手を置く。


突然のことに驚いて、俺は「うわあ!?」と驚きの声をあげてしまった。






カイラ「…何故そこまで驚く」
「えっ?あ、いや……別に!なんでも!ないです!」




俺はそそくさと髪を吹きまくって、顔や腕も拭く。
カイラさんからの視線は気になったが、フウくんとライちゃんがカイラさんに話しかけている様子を見て安堵する。




「………あ」





俺、そろそろ帰らなきゃなあ……














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カイラ「……エンマか」




夜、書物を読んでいると、“アイツ”が現れた。
アイツは、俺の名前を呼んでから、今日の出来事を急に訊きだした。




エンマ「今日お前、シンと一緒にいただろ。…なんでだ」
カイラ「おおもり山で雨に濡れてるアイツを見かけただけだ。助けるのは普通だろう」




そう言うと、「そうかよ」とそっぽを向いた。
俺は少し勝ち気になって、「エンマを呼び出すことはちゃんと推奨したぞ」とも話した。

すると、エンマはパッとこちらを向いた。




カイラ「それでも呼び出さなかった……意味がわかるか?」























とある街。




夜の雪降る景色を眺めながら、親友にさよならを告げかけたが、やはり無理だった。

冷たい雪が髪に積もり始めた頃、少年はゆっくりと家路を辿った。





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何故Forever Friendsの主題歌は“大好きだった”っていう曲名なのでしょうね

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