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優しさとは何か。
なんだかんだでずっと一緒にいてくれる、君の事だと思いたい。
いつも優しくて、明るくて、好奇心が多い彼女のことだと思いたい。
いつの日か、手が届かなくなって、
いつの日か、見えなくなって、
いつの日か、忘れてしまっても、
優しさだけは、温もりだけは覚えていると思いたい。
そうじゃなきゃ、壊れてしまうような気がするから。
暑い夏の日、一緒に麦茶を飲んだ時。
いやいや言いながらも、一緒に開発したロケット。
飛ばした時に、一緒に喜んだあの感覚。
いつも、いつも一緒にいて。
全然飽きなくて。
大好きで、大嫌いで、でもやっぱり大好きで。
「知ってる?妖怪とか幽霊って、子供の頃は見えるのに、大人になれば見えなくなるらしいよ!」
そんなことを言ってからたったの2週間後。
君はその言葉通り、見えなくなってしまった。
手を繋いでみても、頭によじ登ってみても反応はない。
いつも怒った時に発動するビームを乱射しても反応はない。
目の前にいるのは、友達と笑いながら登校する彼女の姿。
少しヨレた制服をきっちりと着て、お馴染みのふんわりとしたきのこ頭で。
そして、やっと君が見えたのは、さいごの時だった。
なにが「ずっと一緒にいてくれてありがとう」だ。
なにが「あの頃すっごく楽しかった」だ。
なにが「大好きだよ」だ。
ふざけんな…
あの頃とは違う、少し大きくてしわくちゃな手を握る。
無機質な音が同じリズムでピッピッと鳴るが、そんなのもう届かない。
一つ、一つとまた暖かい水が手に落ちた。
彼女は笑った。
あの頃と変わらない笑顔で。
少しよろけた、不器用な笑顔で。
ふざけるな。
「…っミーの方が、楽しくて、大好きで、もっと一緒にいたかったって思ってるダニ…!!」
勝手にひとりでいこうなんて、ずるいダニ…!!
ピーという無機質な音が白い部屋に響いた。
さっきとは打って変わり、リズムなんてなくて、ただひたすらに音が響いていた。
でもそんな音より、きっと泣き声の方が大きかったと思う。
もう、なんの音も聞こえなかった。
もし、ミーが人間だったら。
もし、ユーが子供のままだったら。
もっと、遊べたのに。
もっと、ずっと……
「ふざけんな、ダニ…」
なんもできないくせに、願ってしまうのは罪なのかもしれない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。