第12話

ふざけんな
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2021/07/23 11:01








優しさとは何か。






なんだかんだでずっと一緒にいてくれる、君の事だと思いたい。








いつも優しくて、明るくて、好奇心が多い彼女のことだと思いたい。















いつの日か、手が届かなくなって、
いつの日か、見えなくなって、
いつの日か、忘れてしまっても、







優しさだけは、温もりだけは覚えていると思いたい。

そうじゃなきゃ、壊れてしまうような気がするから。





暑い夏の日、一緒に麦茶を飲んだ時。



いやいや言いながらも、一緒に開発したロケット。

飛ばした時に、一緒に喜んだあの感覚。






いつも、いつも一緒にいて。


全然飽きなくて。





大好きで、大嫌いで、でもやっぱり大好きで。










「知ってる?妖怪とか幽霊って、子供の頃は見えるのに、大人になれば見えなくなるらしいよ!」







そんなことを言ってからたったの2週間後。

君はその言葉通り、見えなくなってしまった。




手を繋いでみても、頭によじ登ってみても反応はない。

いつも怒った時に発動するビームを乱射しても反応はない。






目の前にいるのは、友達と笑いながら登校する彼女の姿。







少しヨレた制服をきっちりと着て、お馴染みのふんわりとしたきのこ頭で。



























そして、やっと君が見えたのは、さいごの時だった。






なにが「ずっと一緒にいてくれてありがとう」だ。
なにが「あの頃すっごく楽しかった」だ。
なにが「大好きだよ」だ。




ふざけんな…







あの頃とは違う、少し大きくてしわくちゃな手を握る。

無機質な音が同じリズムでピッピッと鳴るが、そんなのもう届かない。







一つ、一つとまた暖かい水が手に落ちた。







彼女は笑った。


あの頃と変わらない笑顔で。
少しよろけた、不器用な笑顔で。









ふざけるな。













「…っミーの方が、楽しくて、大好きで、もっと一緒にいたかったって思ってるダニ…!!」








勝手にひとりでいこうなんて、ずるいダニ…!!








ピーという無機質な音が白い部屋に響いた。
さっきとは打って変わり、リズムなんてなくて、ただひたすらに音が響いていた。



でもそんな音より、きっと泣き声の方が大きかったと思う。




もう、なんの音も聞こえなかった。












もし、ミーが人間だったら。

もし、ユーが子供のままだったら。






もっと、遊べたのに。
もっと、ずっと……












「ふざけんな、ダニ…」





















なんもできないくせに、願ってしまうのは罪なのかもしれない。

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