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第13話

XIV
ザワつく胸の奥を沈め、コースをわけるロープを潜りながら、彼女の元へ向かう。


足の先に絡んだ水中を彷徨う葉にも、もどかしさを覚えた。


「優月っ !優月!!!」


仰向けにして、呼吸がしやすいように抱き上げる。


僕は優月のゴーグルを外し、プールに放り投げた。


「ゆづきっ!!」


もう一度名前を呼ぶと、すっとまぶたが開き、ゴホッ...っとひとつ咳をしたあと、虚ろな目でこちらを見た。


「·····大丈·····夫·····?」


僕はアホみたいな言葉しか掛けられない。

この言葉は僕が安心したいがためにかけた言葉だ。

なんて、情けない。


「とりあえず、プールから上がろう。」

「·····うん。」


安堵のため息を飲み込み、思う。

優月があんなに風に飛び込みに失敗したことが、今までにあっただろうか。


だき抱えたまま、僕がプールサイドへ向かう。








優月は片手で水をすくい、不思議そうに眺めていた。

手のひらからすり抜けていく液体をじっと目で追っていた。

でも、その怯えるような瞳に色はなくて。

やがて透明なしずくが彼女の頬を滑り落ちた。


でもすぐに目を擦ってそれを拭っていた。そして何も無かったように弱々しく笑うから、




僕も気づかなかったふりをした。



優月
「迷惑かけてごめんね。今日は体調が優れなかったみたい。」
その夜、スマホにそうメッセージが送られてきた。
陸斗
「迷惑だなんて思ってない。無事でよかった。」
返信を打つと、下には既読の文字がすぐについた。
優月
「自分勝手なんだけれど、明後日の海、やっぱり行けない。ごめん。」
『やっぱり』ってなんだ?
彼女の中で、「海へ行けなくなる」という想定があったという事ではないか。









そもそも、体調が悪くて、飛び込みに失敗することがあったとしても、だ。



元水泳部が、なんの抵抗もなしに、水に沈むなんてありえるのだろうか。






わからない。



近くにいるのに、肝心なことは何ひとつ聞けなくて、悔しい。





自分で答えを見つけようと、考えれば考えるほど、昼間の事件を鮮明に思い出して、胸が締め付けられる。


あのまま沈んでいたら·····きっと。





辛くなる。負の感情に足を引っ張りこまれてしまう。


不意に熱くなった目頭を抑えた。


こうでもしていないと、零れてしまうから。






_________________ああ、僕は。




『やっぱり』あのユメを完全に拒否しきれていないんだ。



だからさ、こんなにも。




重なってしまうんだよ_______________。



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柚季 栞音 __ ゆずき しおね
柚季 栞音 __ ゆずき しおね
積み重ね、適度に。 オリジナル小説を書いている方とお話したいです。
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