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第4話

IV
 僕には車のクラクションも、鳥の鳴き声も、電車の発車ベルも、女子高生の高い笑い声も、全て耳から遮断された。

聞こえるのはトクントクンと打つ激しい胸の鼓動。

いつも無意識に探していた、懐かしくて優しい香りが僕の鼻の先を撫でていく。

それがくすぐったくて、嬉しくて、それだけで胸が幸せでいっぱいになる。

僕の手首から伝わってくる、昔と変わらない、ふにゃっとした手の柔らかさが、優月であることを証明している。

だが、片隅に疑っている自分もいる。

学校に着くまで、一言も喉の奥から出てこなかった声を、やっとのことで取り出す。

「優月はなんで僕と同じ方向に歩いているの?」

「土日の間に記憶飛んだのかな。私たち同じ高校じゃん。」

幼なじみのこと忘れるなんてひどーい!と、いじけたふりをしている。

「それは·····そうなんだけど·····。」

もっと根本的な部分が違う。

「クラスのみんなに聞いてみてよ!」

「僕たちは同じクラスなの?」

「そうだよ!私たち出席番号が連続しているから、席も隣だし!」

「えぇっ」

「こっちが、えぇって言いたい!」

優月は、ガラガラガラっとドアを勢いよく開けた。

三年生特有のひんやりとした硬い空気が流れる教室に、似合わないくらいの声量で、横にいた人に話しかける。

「前田くーん。私ってこのクラスにずっといるよね?」

「え?何言ってんの?先月の体育祭だって、その前の校外学習だって一緒に行ったじゃん。」

突然のこんな質問にも前田くんは動じない。当たり前のように笑いながら答えていた。

「だよねー。」

「突然どうしたの?」

「いやー、なんか陸斗がおかしなことばっかり言ってるからさー。いつもの朝待ち合わせ場所で会った時の一言目、『 なんでいるの 』だったからね?」

「元からおかしい奴だと認識してたけど、それ重症だね。」

真顔でサラッと毒を吐く前田くんだけれど、学級委員であり、真面目が代名詞の彼はここまで大掛かりな嘘をつく人ではない。

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柚季 栞音 __ ゆずき しおね
柚季 栞音 __ ゆずき しおね
積み重ね、適度に。 オリジナル小説を書いている方とお話したいです。
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