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第14話

7月31日
「ねぇ、母さん。」

「んー?どうした?」

隣でハンドルを握る母は仕事終わりと思えないくらい、機嫌がよかった。

予備校の送り迎えを自ら買って出るくらい、いいことがあったみたいだ。

ひと昔前に流行ったラブソングをハミングしている。

「ひと月前って、いつも何してた?」

「あたしのこと?」

「いや、僕。なんか変な様子とかじゃなかった?」

「·····ひとつきまえ·····変な様子?」

「それよりもっと前でもいいけど、2年前、高1の夏くらい·····かな?そのへんから。」

優月と『再会』と呼ぶのが正しいのか、
『白昼夢』から覚めるまでと呼ぶのが正しいのかはわからないが、二度目に彼女と出会うまで、僕はいったいどのように生活していたんだろう。

どんなに思い出そうとしても、やはりそこに彼女の影はないのだ。僕の2年分記憶には、彼女は存在しない。

少なくとも、僕の記憶ではだが。

奇妙なことに、スマホの保存された写真には、優月と笑い合う様子が写っている。

狐につままれるような不信感が消えず、これまで何度か友人に優月について聞いたが、怪訝そうな顔をされ、「何言ってるの?」と変人扱いをされて終わるのがオチだった。

母は眉間にシワを寄せながら左ウインカーを出す。

カチカチカチと、車中に響く乾いた音はまるでカウントダウンのようだ。

「わっかんないなー。特に何も無かったと思うけど。反抗期はとっくに終わってたし。」

「·····ふーん。」

「え、何?」

「何って何?」

「記憶喪失とかそういう感じ?」

記憶喪失、か。

「あ、わかった!!入れ替わりでしょ!?中身は陸斗じゃなくて、田舎に住んでる女の子っ?いつか流行った映画であったよね~。いやーん、青春って素敵♡」

なるほどー。とひとり頷くが、ごめん母さん。残念ながら僕は、主人公になれるような柄じゃないんだ。

「真面目に聞くけど、母さんが最後に優月と会った日、覚えてる?」

「優月ちゃん·····。優月ちゃん。ゆづきちゃん。」

「え、高校の授業参観·····?あっ、違う。先月駅前のスーパーで見かけたわ。多分、それが最後かも。」

「·····そっか。ありがとう。」

「どーいたしまして。」

また、ふふんと歌い出す。
母さんののんびりした鼻歌を聴きながらも、僕の鼓動はどくどくと激しく脈を打っていた。

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柚季 栞音 __ ゆずき しおね
柚季 栞音 __ ゆずき しおね
更新が少し遅れてしまうと思います。気長に待っていただけたら幸いです。 オリジナル小説を書いている方とお話したいです。
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