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第12話

7月30日
夏休みは、何日か、学校のプールが開放される。普段は水泳部なんかが練習に使っていたりするのだが、その日だけはここの生徒なら誰でも使っていいことになっている。


「りくとぉぉ!!」

プールサイドを走る足音がした。

バッシャーン

「っ!?ぶはっ!」

気づいた時には遅くて、すっかり水の中だった。

水の泡がするりと肌を撫でていく感覚。

「·····ちょ、マジで勘弁してくれよ。」

鼻の奥がツンと痛み、生ぬるい水はそのまま口の中に侵入した。

とても、気持ち悪い。

塩素の匂いが、じわりと身体中を蝕んでいく。

「にひひひひ~♪」

悪魔のような、いや、悪魔が先程まで僕が立っていた6コース脇のプールサイドで、楽しそうに、僕を見下ろしていた。

「だいたい、今日は泳ぐつもりない、って言ったじゃないか!」

「だってぇー、せっかく水着を着たんだから、泳がないとソンじゃん。」


これでも一応受験生だから、勉強をするために学校の図書室へ来ていた。

優月が突然プールに入ろうと言い出したので、気分転換がてら彼女に合わせて、足だけ水に浸かろうと思っていたのだ。



僕たちは7月の総体まで水泳部だったこともあり、まだ部室に水着が置きっぱなしだった。



((こんなこともあろうかと、僕も水着を着ておいた(小声)))


3番の飛び込み台に上がり、スタートの構えをする優月。


競技用で使われる、なんの色気もない水着は体型のせいからか、幾分幼く見える。


彼女のゴーグルは眩しい日差しを全て拒絶するように、キラキラ反射し、水面を照らす。


「ようい·····ドン」


そうわずかに口を動かすと、勢いよく水面に滑り込む。

白い飛沫が宙を舞う。

彼女が飛び込んだ場所から、水面が波打った。

それが、僕の元まで届く。

·····10秒経過。


が、優月は浮かび上がってこない。


普通競泳は、身体をくねらせ、10メートルほど水面下を泳ぐのだが·····

こんなに長く水中にいただろうか。


·····20秒経過。


彼女は未だプールの底。

さすがに違和感を感じた。

前にも進まず、手足もばたつかせず、物体になってしまったかの如く、彼女は沈んでいた。

うつ伏せの、水に飛び込んだ姿のままで。


「·····え?優月、大丈夫か?」


彼女は女子部員の中では泳ぎが得意なほうだった。

溺れるわけがないがないだろう。


なのに。


そう自分に言い聞かせてみるのに。


背筋につーっと水滴が下る。

これが汗なのか、プールの水なのかはわからない。

ただ、真夏の空の下で寒気を感じたのは、初めてだった。

凍りついたように、僕のからだは動かない。

不気味なことに、首をがくんと固定して、3コースの底を見続けているのだ。


·····30秒経過。


「·····ふざけてる、のか?」


黒い物体は、何も、答えない。

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柚季 栞音 __ ゆずき しおね
柚季 栞音 __ ゆずき しおね
積み重ね、適度に。 オリジナル小説を書いている方とお話したいです。
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