私が面倒そうに階段を下りていくと、それは嬉しそうに笑った都築先生が玄関に立っていた。
その姿はいつもの学校での白シャツとスーツのズボンとかじゃなくって、メンズブランドのTシャツと細身のデニムだ。
仏頂面でお母さんの話を自分の声で遮り、乱暴にサンダルをはいた。
お母さんはずっと先生に頭を下げていて、先生も両手を振り「大丈夫です」と答える。
学校の問題のことで親が関わると、どうしてこんなにイラッとするんだろう。
放っておいてほしいといつも思ってしまう。
それでも小さくなったお母さんの姿を見て、ズキンと胸が痛む。
できるだけお母さんを視界に入らない様にさせて、私は先生より先に家を出た。
昨日、一日中雨が降っていた外は、想像以上に蒸し暑い。
半袖の腕にジメッとした雨特有の不快感を覚えた。
先生の車の中は本当にクーラーをきかせてくれていて、私は助手席に乗った。
それでも先生は「よかったです、乗ってくれて。では、出発しますねー」とのんびりした口調だ。
先生は会話に夢中になっていて、いつまでたっても車を出発させようとしない。
本当におっとりしていて、のんびりしている人だ。
それなのに、運転する姿は大人の男の人を意識させるなんてズルいと思う。
運転席にお父さん以外の人がいるなんて経験がほとんどないから、余計意識しちゃうだけなんだと思うけど。
そして車をゆっくりと発進させて都築先生は私に陽気に話しかけてくる。
こうして会話をしていたいと言ったら、この先生はきっとバカみたいに喜ぶんだろうな。
私が「もういい」って言うまでずっと喋っていそうだ。
一方私はというと、久しぶりに家族以外と会話をするのが案外心地よく楽しかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!