第5話

【暗雲 3】
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2019/05/02 05:01
SHRになり、泣き止んだ恵子は少し落ち着きを取り戻していた。
都築先生はそんな恵子を見て驚いていたけれど、事情を聞こうとしても相手にされていなかった。
そして、私はSHRが終わってからすぐに教室を出て恵子の彼氏である相沢君を探しにとなりのクラスに行った。
なぜ、どうして何の関係もない私との関係を認めたのか知りたかったから。
そしてそれを恵子にウソだと伝えてほしかったから。
相沢君は彼女の恵子が泣いているということを知ってか知らずか、自分のクラスでのん気に友達と談笑している。
また苛立ちが募って、私は乱暴な足取りでとなりのクラスに入った。
紗南
紗南
相沢君、ちょっといい?
私が現れると、途端に気まずい顔になった相沢君を見て、やっぱり恵子にウソをついたんだと確信した。
きっと、私によく似た女の子と恵子を二股してるんだろう。
そして、それを誤魔化すために、私を悪者にしたんだ。
自分が悪者にならないために。
相沢
……ごめん、今からちょっと用事が
紗南
紗南
逃げるの?
かなり冷たい声で言い放った。
それでも相沢君はこの場から逃げようとするから、私は彼のその腕を摑み行動を止めた。
まどか
ほら、恵子、見てみなよ。紗南ったら相沢君にまた言い寄ってるよ
そんな声が後ろから聞こえてきて、背中に冷や汗を一気にかいてしまう。
勢いよく振り返ると、この教室の扉の前に立っていたまどかと恵子の姿があった。
紗南
紗南
あっ……
誤解を解こうと思って起こした行動が、裏目に出てしまった。
私は慌てて相沢君を摑んでいた腕を放す。
相沢君はこれ幸いと、そのまま恵子のもとへ走って行った。
まどか
恵子、見た? 紗南ったらバレたからもうあからさまって感じだよね。相沢君、大丈夫?
相沢
助けてくれてありがとう。恵子、向こうに行こう
そう言って相沢君は恵子の肩を抱き、この教室を後にした。
この一連の行動とやり取りで、私はとなりのクラスでも悪者扱いの視線を痛いほど浴びてしまった。
もう、それからは毎日が針のむしろだった。
噂はどんどんとエスカレートし、「友達の彼氏を奪った略奪女」から「彼女がいる男でも平気で付き合う女」というレッテルを貼られ、知らない男子生徒からもからかいの声をかけられるようになった。
それでも、噂はいつかおさまるだろうと我慢して登校した。
だって、もしかしたらいつか何らかの形で誤解が解けて、また元通りになれるかもというわずかな期待も持っていたから。
─────でも、噂はおさまらなかった。
おさまるどころか私をからかう人達がますます増え、私は学校での自分の居場所をなくしていった。
どうして、私は何も悪いことをしていないのに、こんな目に遭わなきゃいけないんだろう。
相沢君とまどかのウソのせいで、こんなことになってしまった。
恵子にはずっと無視をされ、クラスメイト達からもいないもの扱いをされて、味方なんて誰もいない。
私を挫折に追い込むのに必要な孤独な時間は、既に充分蓄積されていた。
そして、我慢ができなくなった私は担任の都築先生にも何も伝えないまま、二度と登校しない決意をし、学校を飛び出した。

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