〈隼〉
二人を送り出してから
家に帰るとしーんと静まり返る部屋。
さっきまでキッチンで料理していた
亜嵐くんがいたのに。
さっきまで俺のそばで看病してくれてた
あなたちゃんがいたのに…
帰りたい気持ちがどんどん増す。
だけど俺には叶えたい夢がある。
【プルプルプル…】
表示されているのは
【コーチ】
出てみた。
なんだって…?
あの会社とは
ダンスの世界では一番と言っても
過言ではないほど有名な
グループだ。
そんな今の俺からして
別の世界から指名がくるなんて
夢にも思っていなかった。
すげぇ。
俺が目指していたグループからの
指名はすごい。
手が震えている。
今にでも腰が抜けそう。
なぜか心の中には
ダンスの事ではない何かが
引っかかっている感じがする。
今分かった。
今、東京と愛知でも遠いのに
(愛知は亜嵐くんとあなたが住んでるとこです)
俺がデビューしてしまったら…
もっとあの二人との関係が
離されてしまう。
俺は頭を抱えてその場に座った。
けど仕方ない。
自分で決めた道だから
最後までやり遂げなければ────。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。