「賢者様、ひとつ質問があります。賢者様が最初に僕たちに渡してくれたあの謎、というもの。あれが本当であれば僕かエイカ、どちらかが死んでどちらかが永遠の命を持って、レイシアを殺せばこの世界は救われる、ということは間違えないでしょうか?」
重く苦しい沈黙を破ったのは、カイトのいつもとは違うどこか冷たい、機械的な声であった。
「そうじゃ……そればかりは変えようのない事実、お主かエイカ……どちらかが死ぬしかないのだ」
「はぁ……それは、わかりました……それで、死ぬのは僕でも大丈夫なんですよね?」
「ああ、それは勿論。この森の先にある祭壇で、ある条件を達した状態で命を落とせば……大丈夫なはずじゃ」
耳がどんどん遠くなっていく、続きを聞きたくない。そんな感情が渦巻く。
「それなら……僕が、この命を世界のために捧げましょう。そうすれば、エイカは苦しまないですみますよね?」
「……永遠の命が幸せか、といえばそうではないのかもしれないが……それでも、苦しんで死ぬことに比べればまだましだと思うぞ」
「な……なにいってるのカイト!? そんなの……よくないとおもう」
わたしが声をあらげて反論する。しかしカイトは……いつも通りの、優しい微笑みを浮かべて言う。
「いいんだよ、エイカ。僕は、君が苦しい思いをしているのを見るのが大嫌いだった。ずっとずっと、村にいたときから君が泣いているとき、苦しんでいるとき、そんな時間に何もできなかった僕が何か君にしてあげられるなら……それでいいとおもってる」
「……本当に良いのか? 死ぬときは痛くて苦しいぞ、特に……命を捧げるのであれば……楽には死ねないぞ」
「いいんです。僕は、エイカが苦しんでいるところをみる方がよっぽど嫌です」
「……そうか」
またもや、重苦しい沈黙が流れる。このあと、賢者様がカイトに向かって色々と説明をしていたが私は聞きたくなかった……否、聞けなかったのだ。怖くて、辛くて……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。