第133話

七章 最終節 約束、別れ
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2021/03/03 15:36


 死にたいなんて、思えるわけがなかった。今まで生きてきた14年間、嫌なことはいっぱいあっても、それでも大好きだったこの人生……。私は、この人生とさよならをしたいだなんて思えるわけがなかったのだ。

「……エイカ、このナイフ……これが儀式で使うものだ」

「……ありがとう、カイト」

 私は、この間違えなくこの人生を愛していた。たくさんの人にかこまれて、精霊さんにも出会えて、幸せだったこの人生。出来ればこのままでいたかった、こんな運命なんて見て見ぬふりをして最後まで幸せでいたかった。

 それに、カイトと……離ればなれになるのなんて絶対嫌だった。泣き止んだはずなのに、また泣いている幼馴染みと離ればなれになるのは、いやだ。

「カイト……泣かないで」

「……」

 けど……私は、守りたかった。私はこの緑が溢れる美しい景色を……この森、music forestを守りたかった。一日の始まりを告げる朝焼けを、働く人々や元気な子供の声が響くお昼を、葉を赤く染める宝石みたいな夕暮れを、静かだけどとても暖かい夜を……。

「……いつだか、話をしてくれたよね」

「……何を?」

「輪廻転生の話、一度死んだ魂は巡ってこの世界に戻ってくる……そんな話を、してくれたじゃん」

「……」

「大丈夫だよ、カイト。私は……もう一度、貴方に会いに来るから」

 本当のカイトは強いんだ。私なんかがいなくたって、きっと幸せになってくれるはず。それに、これは永遠の別れなんかじゃない。いつか、きっとまた会えるって信じているから。

「……きっと約束する」

 それじゃあ、と一言……いつもと変わらない声で、あの日村を旅だったときとおんなじ声で言った。

「……僕も……君を探しにいくよ、だから、だから……僕とも約束して?」

 目にいっぱいに溜めていた涙を強くぬぐうカイト。

「それじゃあ私も……」

 どちらともなくお互いの小指を差し出して、絡めあう。

『もう一度、一緒に冒険をしようね!! 約束だよ!!』

 最後は、とびっきりの笑顔で終わりたい。だからこそ、私は微笑んだ。カイトも、釣られるようにして今までのなかで一番の笑顔を返してくれる……そっと、指を離した。

 ゆっくりとお互いから離れて、私はカンパニュラの祭壇に、カイトは青いチューリップの祭壇に、それぞれつく。準備を進めてくれていたフェニックスさんや、イフリートさんのお陰で、もうあとは……

「それじゃあ、エイカさんは最後の仕上げを……」

 こくりと一回うなずいて、私はナイフを心臓へ突き立てた。走る鈍い痛みと共に、頭のなかで蘇るたくさんの思い出たち……大好きなみんな、本当にありがとう、さようなら。またいつか、太陽のもとで会おうね!!

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