死にたいなんて、思えるわけがなかった。今まで生きてきた14年間、嫌なことはいっぱいあっても、それでも大好きだったこの人生……。私は、この人生とさよならをしたいだなんて思えるわけがなかったのだ。
「……エイカ、このナイフ……これが儀式で使うものだ」
「……ありがとう、カイト」
私は、この間違えなくこの人生を愛していた。たくさんの人にかこまれて、精霊さんにも出会えて、幸せだったこの人生。出来ればこのままでいたかった、こんな運命なんて見て見ぬふりをして最後まで幸せでいたかった。
それに、カイトと……離ればなれになるのなんて絶対嫌だった。泣き止んだはずなのに、また泣いている幼馴染みと離ればなれになるのは、いやだ。
「カイト……泣かないで」
「……」
けど……私は、守りたかった。私はこの緑が溢れる美しい景色を……この森、music forestを守りたかった。一日の始まりを告げる朝焼けを、働く人々や元気な子供の声が響くお昼を、葉を赤く染める宝石みたいな夕暮れを、静かだけどとても暖かい夜を……。
「……いつだか、話をしてくれたよね」
「……何を?」
「輪廻転生の話、一度死んだ魂は巡ってこの世界に戻ってくる……そんな話を、してくれたじゃん」
「……」
「大丈夫だよ、カイト。私は……もう一度、貴方に会いに来るから」
本当のカイトは強いんだ。私なんかがいなくたって、きっと幸せになってくれるはず。それに、これは永遠の別れなんかじゃない。いつか、きっとまた会えるって信じているから。
「……きっと約束する」
それじゃあ、と一言……いつもと変わらない声で、あの日村を旅だったときとおんなじ声で言った。
「……僕も……君を探しにいくよ、だから、だから……僕とも約束して?」
目にいっぱいに溜めていた涙を強くぬぐうカイト。
「それじゃあ私も……」
どちらともなくお互いの小指を差し出して、絡めあう。
『もう一度、一緒に冒険をしようね!! 約束だよ!!』
最後は、とびっきりの笑顔で終わりたい。だからこそ、私は微笑んだ。カイトも、釣られるようにして今までのなかで一番の笑顔を返してくれる……そっと、指を離した。
ゆっくりとお互いから離れて、私はカンパニュラの祭壇に、カイトは青いチューリップの祭壇に、それぞれつく。準備を進めてくれていたフェニックスさんや、イフリートさんのお陰で、もうあとは……
「それじゃあ、エイカさんは最後の仕上げを……」
こくりと一回うなずいて、私はナイフを心臓へ突き立てた。走る鈍い痛みと共に、頭のなかで蘇るたくさんの思い出たち……大好きなみんな、本当にありがとう、さようなら。またいつか、太陽のもとで会おうね!!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。