「エイカ、エイカ、起きて……起きろ~!!」
まったくかわることのない幼馴染の声で、私の意識は徐々に現実世界へと戻ってくる。そこは、この前借りた宿屋の一室でもう見慣れた風景であった。
エドナの地獄のレッスンが連日続いたせいで少し頭が痛い……それに、何となくもやがかかっているような不信感が自分の頭を占領していて、少しだけ機嫌が悪いかもしれない……。
「大丈夫エイカ? 水いる?」
「……いる」
そういって、カイトがコップ一杯の水をくれた。私はそれをすぐに飲み干す。
「うお!! 飲むの早いな……まあいいや、何となく体調悪そうだったから起こしちゃったけど大丈夫だった? 今日は旅立ちの日だけど体調悪そうなら少しずらす?」
「うん……って!! そういえば今日この街を出るんだっけ?」
そういえば、わすれていた。今日もう出るんだった。準備ちゃんと終わっているっけ?
「準備はしてあるから安心してよ。とりあえず、まだ休んでいなよ。三時まではこの部屋にいられるし、次の行き先は野宿を繰り返す感じで時間の制限とかもないからゆっくり進めるし」
「……カイト、ありがとうね」
「どうってことないよ。あ、そういえばエドナは今外に散歩しに行っているみたいだよ。まあ、そのうち帰ってくるでしょ」
「そうだね……」
「とりあえず、それまでは休んでな」
そういってカイトは、部屋の奥の方に消えて行ってしまった。私は、もう一度布団にくるまって目をゆっくりと閉じた。
先程まで見えていた紫水晶のような色の髪の毛が見えなくなる。眠気が、一気に襲い掛かる。気がついたらもう、意識は遥か彼方へと飛んで行ってしまった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!