第123話

六章 二節 桜のように美しい
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2021/01/26 17:21


 人の命はとても儚いものである。神様が決めた天命というものに従って、決められた期間を生きて、そして死んでいく。

 だからこそ、人の命はとても綺麗だ。短いからこそ、桜のように美しい……。

 けど、これから私の命に終わりというものはなくなる。世界のどこにあるものも、形のあるものは必ず滅びる。形のないものもいつしか忘れられ、朽ちていく。そんなもの。

 しかし私は、私だけはその常識から外れることになる。怖いと言えば怖い。だって、大好きなみんなにいつか会えなくなってしまうのだから……。

 けど、一番怖いのはカイトだ。私ばっかり怖がっていたら、彼に申し訳がたたない……。

 カイトは、生まれたときからずっと一緒にいた。たくさん遊んだ、喧嘩もたくさんした、それでも最後は……仲直りをして、もっと仲が良くなった。

 私は、カイトが大好きだ。きっと、ずっと、この先も……。大切な親友……ずっと一緒にいたかった。

 私は死ねなくなる、カイトは死んでしまう。この世界のもっと先にあるであろう、神様の身許で会うことすら許されない。

 けど、それが決められていた私の運命。それに抗ったら……世界にすむすべての人間が、不幸になってしまうのだ。

 ……せめて、最後は笑顔で。笑って、そして終わるんだ。私が普通の人間として過ごせる最期の時間と、カイトと共にいられる時間を……。

 目を強引に擦り、曇った視界を綺麗にする。いつもの、青色の髪の毛が今は近い。少しだけ、嗚咽も聞こえてくる。私は、そんな彼をぎゅっと抱き締める。大丈夫だよ。言葉を紡ぐことはできないけれど、心の中で良いながら。

「それじゃあ、最後に言葉を残してくれ。そうしたら、儀式を始めるよ」

 私は、泣かない。大丈夫、カイトと一緒にいられる、最後の時間は……さいっこうの笑顔にしないとね!!

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