第127話

六章 六節 誰も愛してくれなかった
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2021/02/12 15:53


「どうして、この世界が嫌いなの?」

「誰も、私を愛してくれなかった。お父様も、お母様も……あなた……お兄様も!! 誰も私を見ようとはしなかった。この世界は所詮誰かの不幸だけで成り立っているのよ。幸せなんて、誰かの不幸がなければ存在しないわ。汚いこの世界なんて大嫌い」

 レイシアは一瞬目を伏せた。とても、悲しそうに見えた。 

「私は神様のもとで幸せになることはできないのよ!!」

(そんなことはない!!)

 必死に声にして叫ぼうとする。しかし、私の声はでない。だって、目の前にいる彼女に奪われてしまったからだ。彼女は、遠い昔に不幸だった自分を嘆いて自分の心を捨てていた。本当の彼女は……こんな人間じゃないはずなんだ、きっと……何もできなかったから、なにもしてあげられなかったから歪んで言っただけで……。

 声がでないことが悔やまれる。声が出たら違うよって、何度でも言ってあげられるのに……。カイトは彼女の過去について深いことは何も知らない。知っているのは精霊さんと私だけ……。だけど、精霊さんは私たちを守るのに精一杯で……。本来なら、私が声をかけてあげなければいけないのに……。

 その瞬間に、私の頭のなかに一つの記憶が思い出された。

「君のなかで呪いを溶かすんだ。君の力を、魔力を、身体中に巡らせて呪いを排除するんだ。君の力には聖気が溢れている。きっと、大丈夫だろう」

 身体中に力を巡らせて、呪いを溶かす方法……。これだ、これしかない。彼女に優しい言葉をかけるには、この方法しかないのだ……。

 レイシアを救うため。彼女を殺さないと、世界に平和はやってこない。けれど、このまま彼女を苦しませたまま死なせるわけにはいかないの……。女王様!! どうかわたしに力を貸してください。妹になるはずだったあの子を、救うために……。

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