千年前の賢人からの言葉、この言葉のお陰で私はどれだけ重大な使命を任せられているか、ということに気がついてしまった。私たちが失敗すれば、この世界がカイトの血縁者……いいや、カイトの持っている魂の妹によってこの世界が本当に滅びてしまうこと。
長い長い人類の歴史からすれば、私かカイトがしぬなんてことは、些細な変化でしかない。むしろ、変化がないに等しいだろう。でも、私とカイトと、そしてエドナにとってそれは違う。私たちは一緒に旅をして来た仲間で、欠けてしまったら、それで何かもかもが崩れ去ってしまう。
けど、私かカイトが犠牲にならねばこの世界は救えないのだ……。そんなの、本当に不公平だと思う。死にたい人物がいて、生きたい人物がいるのに、どうして私が……。
と、ここで自分がどうしようもなくクズなこと考えていることに気がついた。自分以外の人間が代わりになればいい、という自己の欲に従った醜い考え。自分自身のことしか考えられない、最低で最悪なもの……。
だけど、これが人間の……私の本性なのだと思う。きっと、窮地に立たされなかったら知ることのなかったこの考え……。
そんなことを考えているうちに、自分自身の心が闇に染まっていることに気がついた。こんな暗い考えを持ったのなんて、初めてだ……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!