「女王様、お疲れですか?」
薄暗い部屋の片隅にある、資料で埋まった机。そこにうずくまる女王に、一人の男が声をかけた。彼は、女王に仕える御付人である。午後三時、日が差し始めるこの時間に、お茶を持って女王の部屋を訪ねるのはもう見慣れた光景であった。
「全然、疲れていないのう。寧ろ今日は調子がいいぞ」
女王が、顔もあげずにそう言った。その視線の先には大量の資料があり、ひたすらに手を動かしている。心なしか顔も悪いように見える。召し使いが、呆れたようにため息をついた。
「全く、あなたはいつもそうです。仕事ばっかりで全然自分のことを気にかけない少しくらい、休んだらどうですか?」
「無理だ……我が仕事をしないと家臣どもが急かしてくるのじゃ」
「そんなの、女王様がうるさいとでも言えば一回で黙るのでは?」
「それもだめじゃ、権力を使って服従させてもそこにはなにも残らない」
女王は手を動かしながら……だが、[music country]の賢王と呼ばれるに相応しい荘厳な表情を浮かべていった。召し使いは、そんな女王をみて一瞬だけ蹴落とされる。しかし、すぐにあきれたような表情に戻る。そして、机の上にお茶を置いていった。
「まあ女王様、適当に休みはとってくださいね。我が王国をつくった偉大なる祖の血を引くあなた様が、過労死で死んだなど隣国にもバカにされてしまいますので」
「ああ、程々にはする予定だよ」
部屋には、筆の音が響き渡る。こつこつと召し使いの足音が響いて、扉がキーっと開く音がした。そこには、もう召し使いの姿はなく、ただ一人仕事をしている女王の姿だけが残っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。