第34話

一章 五節 ???
93
2020/09/12 16:52


「女王様、お疲れですか?」

 薄暗い部屋の片隅にある、資料で埋まった机。そこにうずくまる女王に、一人の男が声をかけた。彼は、女王に仕える御付人である。午後三時、日が差し始めるこの時間に、お茶を持って女王の部屋を訪ねるのはもう見慣れた光景であった。

「全然、疲れていないのう。寧ろ今日は調子がいいぞ」

 女王が、顔もあげずにそう言った。その視線の先には大量の資料があり、ひたすらに手を動かしている。心なしか顔も悪いように見える。召し使いが、呆れたようにため息をついた。

「全く、あなたはいつもそうです。仕事ばっかりで全然自分のことを気にかけない少しくらい、休んだらどうですか?」

「無理だ……我が仕事をしないと家臣どもが急かしてくるのじゃ」

「そんなの、女王様がうるさいとでも言えば一回で黙るのでは?」

「それもだめじゃ、権力を使って服従させてもそこにはなにも残らない」

 女王は手を動かしながら……だが、[music country]の賢王と呼ばれるに相応しい荘厳な表情を浮かべていった。召し使いは、そんな女王をみて一瞬だけ蹴落とされる。しかし、すぐにあきれたような表情に戻る。そして、机の上にお茶を置いていった。

「まあ女王様、適当に休みはとってくださいね。我が王国をつくった偉大なる祖の血を引くあなた様が、過労死で死んだなど隣国にもバカにされてしまいますので」

「ああ、程々にはする予定だよ」

 部屋には、筆の音が響き渡る。こつこつと召し使いの足音が響いて、扉がキーっと開く音がした。そこには、もう召し使いの姿はなく、ただ一人仕事をしている女王の姿だけが残っていた。

プリ小説オーディオドラマ