第124話

六章 三節 失ったもの、失うものの尊さ
47
2021/01/27 16:10


 いつの間にか、カイトの嗚咽はもう止まっていた。彼は、泣いて目が少しだけ赤くなっているけれど、決意を固めたような……そんな表情を固めていた……。

「まず……イフリートさん、ウンディーネさん、フェニックスさん……今まで僕らの旅を助けてくださってありがとうございました。皆さんがいなければ、僕らの旅は……きっと何も知らないまま終わっていました。何も知らないまま、僕の妹のせいで世界が終わるのをまっていた……だけでした」

「ごめんなさい……私たちが不甲斐ないばかりにこんなことになってしまって」

 イフリートさんが言った。とても悲しそうな声で言った。

「いいんです、皆さんのせいじゃない。僕のせいで、自業自得の結末です」

 自業自得の結末、といい自嘲気味に笑うカイト。

「エドナにも、伝えてください。短い間だったけど、たのしかったよ。いつか、また会おうねと」

「……伝えておくわ」

 イフリートさんが言うと、カイトは私のことをもう一度強く抱きしめて言った。いつもの猫みたいに柔らかい髪の毛が頬にくっつく。

「……最後に、エイカ、今までありがとう。これまでの十数年間、ずっと楽しかったよ。本当はもっと一緒に笑っていたかったし、ずっと一緒にいたかった……けど、ごめんね。もう会えないかもしれないけど、会えなくてもずっと君の幸せを願っているよ」

『こちらこそ、ありがとう……私もずっと一緒にいて楽しかったよ。会えなくなっても、ずっと、カイトは大切な友達だよ……』

 ダメだ、少しずつ目の前がぼやけて上手く文字が書けなくなっていく。だめだ、笑わないといけない。笑って……終わりにしないとダメなのに……。大切な幼馴染み、だからこそ……笑って……。

 ……笑えるわけ、ないじゃない。笑って……終わりにできるわけが……。

「エイカ……」

 もう、視界は使い物にならなくなっていた。ぼやけていて、何も見えない。今この瞬間がすべて夢で、気が付いたら家のベッドで寝ていてお母さんもいて、お父さんも帰ってきていて、あの懐かしい村にいて、カイトがいて……いつも通りの日常になっていれば良いのに。

 幸せなんて、儚い。すぐに散ってしまう。どんなに強がって、それをみないようにしても、必ず同じ分の重さだけのし掛かってくる。大好きな世界も、いつかは壊れる、なくなる、そんなものだ。

 壊れやすいから、なくなるから、それは大切なものだって気が付ける。大切だったって、失ったから、失うから気が付けるんだ……。

 私は、この瞬間に悲しまないようにしたかった。強く……なりたかった。親友を、カイトを心配できなかった……。

 お母さん、私は強い子なんかになれなかったよ。投げ出したりしない、って誓ったのに今すぐに投げ出して逃げ出したい気持ちでいっぱい。ダメな子でごめんね、弱くてごめんね……。

 私はバカだ。もっと、大切にすればよかった。カイトにはたくさんの迷惑をかけた。なのに……私は何もしてあげられなかった。できることはたくさんあった。けど、しなかった……。後悔だけが降り積もっていく、失ったもの、失うものの尊さが、私の心を切り裂いていく。

プリ小説オーディオドラマ